境界線・3
2002年5月22日その後二人は少し奥まったラヴァ-ズ席へと移っていってしまったから。
あたしは退屈しのぎに何人かの顔見知りの常連客と話をしていたけれど、本当は上の空だった。
その中の誰かに口説かれた気もしたが、とてもそんな気分じゃなかった。
アサヒ達のいる背中の方向が熱をもってあたしを撃ってくる。
とうとうこらえきれずにさりげなさを装って振り向くと、丁度アサヒが立ち上がってあたしにウインクを寄越してきた。
その腕はしっかりとアイの肩に廻されている。
成果は上々だよ。
そんなアサヒの声が聞こえてくるくらい二人は自然に出て行ったのに。
あの後一体何があったんだろう?
胸をかきむしりたくなるような嫉妬はいつしか諦めに変わった。
アサヒは誰にも縛られない、そのことだけがせめてもの救いだった。
例えその法則があたし自身にあてはまるとしても。
バーで知り合った子と身体の相性が良い時は、何日も帰ってこないこともあった。
でもそんな相手でも、もってせいぜい一週間だ。
大抵相手の方がアサヒの浮気癖に耐えられなくなるか、言うだけ言ってフォローのない態度に腹を立ててケンカになるか、のどちらかだった。
そんな子たちをあたしは横目で見ながらホントはちょっと優越感を抱いてる。
だって結局は、あたしのところに帰ってくるから。
一年以上も一緒に暮らせる子なんて他にはいない。
あたしはトクベツなんだって。
そうでも思わなきゃやってらんないじゃない?
だけど今度ばかりはあたしのそのささやかな優越感も音を立てて崩れ去りそうな気配だ。
あの夜からずっと、アサヒはヘンなままだ。
コーヒーに砂糖と塩を入れ間違えるなんて今時ギャグマンガでもやらないような間違いを平気でやってのける。
深い深いため息をつく。
日に日に無口になっていく。
時々、胸の辺りをきゅ、と握り締め、眉を寄せてうつむいている。
その仕草には覚えがある。――あたしが、独り眠れない夜、何度も何度も胸の奥で這いずり回る疼きに似た痛みをこらえる時とあまりにも似ていた。
そんなアサヒを見てしまった時、あたしは目をつぶり、耳を塞いでしまいたくなる。
ちょうど子供の頃、大嫌いだった雷の夜と同じように。
誰も・・・誰もアサヒを連れて行かないで。
いつでも心は叫んでいる。
身体くらいならいい。けど、心までは連れて行かないでほしいと。
あたしは退屈しのぎに何人かの顔見知りの常連客と話をしていたけれど、本当は上の空だった。
その中の誰かに口説かれた気もしたが、とてもそんな気分じゃなかった。
アサヒ達のいる背中の方向が熱をもってあたしを撃ってくる。
とうとうこらえきれずにさりげなさを装って振り向くと、丁度アサヒが立ち上がってあたしにウインクを寄越してきた。
その腕はしっかりとアイの肩に廻されている。
成果は上々だよ。
そんなアサヒの声が聞こえてくるくらい二人は自然に出て行ったのに。
あの後一体何があったんだろう?
胸をかきむしりたくなるような嫉妬はいつしか諦めに変わった。
アサヒは誰にも縛られない、そのことだけがせめてもの救いだった。
例えその法則があたし自身にあてはまるとしても。
バーで知り合った子と身体の相性が良い時は、何日も帰ってこないこともあった。
でもそんな相手でも、もってせいぜい一週間だ。
大抵相手の方がアサヒの浮気癖に耐えられなくなるか、言うだけ言ってフォローのない態度に腹を立ててケンカになるか、のどちらかだった。
そんな子たちをあたしは横目で見ながらホントはちょっと優越感を抱いてる。
だって結局は、あたしのところに帰ってくるから。
一年以上も一緒に暮らせる子なんて他にはいない。
あたしはトクベツなんだって。
そうでも思わなきゃやってらんないじゃない?
だけど今度ばかりはあたしのそのささやかな優越感も音を立てて崩れ去りそうな気配だ。
あの夜からずっと、アサヒはヘンなままだ。
コーヒーに砂糖と塩を入れ間違えるなんて今時ギャグマンガでもやらないような間違いを平気でやってのける。
深い深いため息をつく。
日に日に無口になっていく。
時々、胸の辺りをきゅ、と握り締め、眉を寄せてうつむいている。
その仕草には覚えがある。――あたしが、独り眠れない夜、何度も何度も胸の奥で這いずり回る疼きに似た痛みをこらえる時とあまりにも似ていた。
そんなアサヒを見てしまった時、あたしは目をつぶり、耳を塞いでしまいたくなる。
ちょうど子供の頃、大嫌いだった雷の夜と同じように。
誰も・・・誰もアサヒを連れて行かないで。
いつでも心は叫んでいる。
身体くらいならいい。けど、心までは連れて行かないでほしいと。
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