夢幻の罠

2003年4月4日
夢を断ち切ってくれるのは、
お前の甘い声がいい。
低血圧を装って
ちょっと怒ったその声を聞きたくて
わざと寝惚けた振りをしたりもする。

お兄ちゃんはいつも
「あと5分」を3回は繰り返す。
多分蹴っ飛ばしてもニードロップしても
あと5分・・いや3分。って言い続けるんだろうな。はあぁ。
「あと5分・・・」
ほらね、やっぱり。
今日はちょっと怒ってる、私。
「わかったよ。あと5分ね。おやすみ」
冷たく言い放って部屋を出て行ってみる。
・・5分経っても起きてこない。
知らずため息が出る。まったく。他は完璧すぎるほど出来たお兄ちゃんなのに何で朝だけはこうも意志が弱いんだろ?
「5分過ぎたよ。いい加減遅刻するよ?」
「ん・・・後5分」

やっぱり来ると思った。
深久はやっぱり甘い。
しっかり5分寝かしてくれるんだから。
布団をひっかぶって降り注ぐ声に幸せを感じているといきなり布団の端がめくられ、
深久がもぐりこんできた。
俺は慌てて起き上がった。
「ってお前何で入ってくんだよ?!」
「へっへ〜びっくりした?」
やられた。心臓が一気に跳ね上がる。
当の深久は今度からはこの手でいこう、などと
満足気につぶやいてる。
人の気も知らないで、という言葉のいい見本だ。
俺はそんな深久の頭から布団をかぶせてその上から強く抱きしめてやる。
「ちょ・・ちょっとお兄ちゃん??」
戸惑った深久の声を聞いても
掛け布団越しのその感触をあと10秒は味わうつもりだ。
頭の中でカウントダウンしてから怪我が治った小鳥を森に放すみたいに優しく解き放ってやる。
「もう、なにすんの?」
呆れた声でふくれてみせる深久も可愛いとおもう。
「びっくり返しだよ」
「何それ。」
「さってと。今日の朝ごはんは何かな?」



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