そんな苦労も幸せらしい。
2003年4月9日「遅くなるなよ」
苦い思いを封じ込めて俺は煙草を灰皿にねじり込んでから席を立った。
「うん。夕飯までには帰るからね」
まったくこういう日は頭を仕事にギアチェンジするのにひと苦労だ。
今頃どんな話をしてるんだろう。
笑顔でいるだろうか。
どこで何をしているんだ?
頭の中を疑問だけが駆け巡る。
それは焦燥感を伴う痛い感情だ。
「せーんせ」
後ろからいきなり声を掛けられた。
振り返ると局地的有名人がいた。
沢木カナコ。
うちの予備校教師で彼女を知らない人間はいない。
難関国立大現役クラストップの才媛。
東大模試でオールA判定という快挙な記録を
更新中だ。
もちろんそれだけの生徒なら過去にも現在にも何人かはいるが、決定的に彼女を際立たせているのはその容姿だった。
意志の硬そうな強い瞳と透明感がある肌、口紅など必要ないだろうと思うくらい綺麗に発色している唇。
それらが奇跡的に融合して人形のような存在を創り上げていた。
校則が厳しいらしく髪は黒く化粧などはしていないが、そんな人工的なものは彼女には不似合いだと思う。
そのままで、完成されているのだ。
「何?沢木さん」
「さっきの最後の問題間違ってたよ。答えX=1じゃない?」
「あれ?俺なんて書いてた?」
「0よ。ねえ大丈夫?なんか今日上の空だったわ」
俺は苦笑した。しっかり気持ちを切り替えたつもりだったのに失敗していたらしい。
「ひどいな・・・誰も言ってくれないんだもんな」
「誰も気づいてないのよ。なんの疑問も抱かず授業受けてるんだから。あたしあのクラスで話合う人一人もいないわ。情けない・・・」
「沢木さん、友達いないでしょ?」
「失礼ね!いるわよ。失礼ね」
わざわざ2回も繰り返し沢木カナコは微笑んでみせた。彼女が笑うといつも香りの強い花を思い出す。艶やかな、真紅の花。
「せんせい位意地の悪い人は友達にはしないけどね」
「無視するわけだ?」
「ううん。彼氏にするの」
そういってまたにっこりと笑った。なかなか素敵な笑顔だった。
彼女のこういう会話にもっていく能力には舌を巻く。
「じゃあ俺素直ないい子ちゃんになろうかな」
「無理ね」
ずばっとツッコんでからカナコはひらひらと手を振った。
「じゃあね、また明日」
今日の分の授業はこれで終了したが冬期講習の下準備でまだ帰れそうにない。
でも俺は深久が気になって仕方なかった。
とりあえず家に電話してみたが留守電になってしまう。携帯にも掛けてみたが出やしない。
イラつきながら腕時計を見るともう9時を回っている。
何やってるんだあいつ。
深呼吸して気持ちを落ち着かせてから速攻で仕事を終わらせ、俺は車に飛び乗った。
苦い思いを封じ込めて俺は煙草を灰皿にねじり込んでから席を立った。
「うん。夕飯までには帰るからね」
まったくこういう日は頭を仕事にギアチェンジするのにひと苦労だ。
今頃どんな話をしてるんだろう。
笑顔でいるだろうか。
どこで何をしているんだ?
頭の中を疑問だけが駆け巡る。
それは焦燥感を伴う痛い感情だ。
「せーんせ」
後ろからいきなり声を掛けられた。
振り返ると局地的有名人がいた。
沢木カナコ。
うちの予備校教師で彼女を知らない人間はいない。
難関国立大現役クラストップの才媛。
東大模試でオールA判定という快挙な記録を
更新中だ。
もちろんそれだけの生徒なら過去にも現在にも何人かはいるが、決定的に彼女を際立たせているのはその容姿だった。
意志の硬そうな強い瞳と透明感がある肌、口紅など必要ないだろうと思うくらい綺麗に発色している唇。
それらが奇跡的に融合して人形のような存在を創り上げていた。
校則が厳しいらしく髪は黒く化粧などはしていないが、そんな人工的なものは彼女には不似合いだと思う。
そのままで、完成されているのだ。
「何?沢木さん」
「さっきの最後の問題間違ってたよ。答えX=1じゃない?」
「あれ?俺なんて書いてた?」
「0よ。ねえ大丈夫?なんか今日上の空だったわ」
俺は苦笑した。しっかり気持ちを切り替えたつもりだったのに失敗していたらしい。
「ひどいな・・・誰も言ってくれないんだもんな」
「誰も気づいてないのよ。なんの疑問も抱かず授業受けてるんだから。あたしあのクラスで話合う人一人もいないわ。情けない・・・」
「沢木さん、友達いないでしょ?」
「失礼ね!いるわよ。失礼ね」
わざわざ2回も繰り返し沢木カナコは微笑んでみせた。彼女が笑うといつも香りの強い花を思い出す。艶やかな、真紅の花。
「せんせい位意地の悪い人は友達にはしないけどね」
「無視するわけだ?」
「ううん。彼氏にするの」
そういってまたにっこりと笑った。なかなか素敵な笑顔だった。
彼女のこういう会話にもっていく能力には舌を巻く。
「じゃあ俺素直ないい子ちゃんになろうかな」
「無理ね」
ずばっとツッコんでからカナコはひらひらと手を振った。
「じゃあね、また明日」
今日の分の授業はこれで終了したが冬期講習の下準備でまだ帰れそうにない。
でも俺は深久が気になって仕方なかった。
とりあえず家に電話してみたが留守電になってしまう。携帯にも掛けてみたが出やしない。
イラつきながら腕時計を見るともう9時を回っている。
何やってるんだあいつ。
深呼吸して気持ちを落ち着かせてから速攻で仕事を終わらせ、俺は車に飛び乗った。
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