おかしな気持ち。

2003年4月21日
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お兄ちゃんの帰りが遅いと、つい動揺しちゃうんだよね。なんだかもう帰ってこないような気がして。お母さんの誕生日を忘れてたことにもちょっと頭きちゃったし。
でも、お兄ちゃんは私にすっごく気を遣ってくれてる方だと思う。
遅くなるときは絶対連絡くれるし、朝帰りなんて一回もした事がない。
お兄ちゃんが大学生の頃、サキさんと付き合っていたときでさえも。
どうしようもなく夜が怖い。
一人で部屋で過ごしてると、ふとたまらない孤独感に襲われる。
音がない世界がいや。
耳に染みるような静寂に耐え切れない。
世界が伸び縮みを繰り返すのと似た時間のうねりが永遠に私を飲み込んで離さない、そんなイメージがつきまとう。
多分私はすごく子供なんだ。
お父さんもお母さんも帰ってこない夜はいつもお兄ちゃんがいてくれた。
どんなときもそばにいて、励ましてくれた。
お兄ちゃんだって怖い時、あっただろうにな。
私ばっかり甘えてる。頼ってる。
ほんとはこんな自分、嫌い。
しっかりしなきゃと思う。
でもね・・・そう思ってるクセに、お兄ちゃんに今は彼女がいないって聞いてほっとしてる自分もいる。
昨日はあんなこと言っちゃったけど。
誰にも紹介なんてしたくないし、ひとりじめしてたい。
おかしな気持ち。
お兄ちゃんにとっての一番は、私であってほしいなんてさ。
そんなこと考えながら、私はベッドの上で大きくひとつ伸びをした。
そして頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
もしお兄ちゃんに彼女ができたらその時は・・・ちゃんと笑顔でやったじゃんって言おう。
きっといつかは離れられる日が来る。
私には、ハル君がいるし。

いつも通りねぼすけお兄ちゃんをたたき起こし送り出してから昨日のパーティーの片付けをし、バイトに向かう。
私は大通り近くのファミレスでホールのバイトをしてる。実はハル君の方が私より半年位先輩だ。
歳は私の方が3つも上だけど。
前、年上と付き合うのに抵抗ないの?ってハル君に聞いたことがある。そしたら「深久は年上には見えない」って。失礼しちゃうよね?
自分の方がじゅーぶんコドモなくせに。
とか思っているうちに、前から必死で自転車飛ばしてくるのはそのハル君だ。
「おはよ!」
「うす。あれ?なんか眠そうな顔してねえ?」
「うん・・ちょっと夜更かししちゃった」
「そっか・・・」
自転車を従業員用のスペースに止めて、私たちは並んで歩いた。
付き合ってることは一応みんなには内緒にしてる。だから一緒に入るのは気が引けたけど、ハル君に言ったら考えすぎだよって怒られた。
「だってほんとにたまたまそこで会っただけじゃん?誰もそんな事気にしないって」
「そうかな・・・」
「それよりさ」
そういっていきなりハル君は耳元に口を寄せてきた。
「今日バイト終わったらどっかいかねえ?バイト料出たしさ」
どきどきして思わず息を止めてしまった。
「ん・・駅前辺りで待ち合わせ?」
「ああ。じゃまたその時な」
ぽん、と私の頭を軽く叩いてハル君は私よりも先にドアをあけ、おはようございまっす!と元気な声をあげて入っていった。

「お待たせ」
「おっせー。いっつも深久ってオレより後だよな」
バイトが終わった後待ち合わせ場所に駆けつけるとハル君がちょっと怒り口調で言った。
「だって着替えあるし・・」
「オレも同じだよ」
「女の子の方が時間かかるのっ!」
「それがわっかんねえ・・・」
首をかしげながらハルは自転車の後ろを指差した。
「ほら、スタンドつけたんだ」
「え?ああ、立ったまま後ろに乗れるヤツ?今でも売ってるんだ」
「いや、友達から買った。深久と乗りたくてさ」
顔をそらしながらそんなこと言うハル君がちょっとカワイイ。
「やった♪じゃあ早速・・・」
言いながら私はスタンドに足をかけた。
実は初めての経験だ。
ハル君の肩をおそるおそるつかみ、ゆっくりと両足を乗せたとたん、
「よし、じゃあ出発〜!」
と速攻走り出した。
「や、ちょっと待って〜うわ怖い」
「しっかりつかまってろよ」
そういうハル君の声があっという間に後ろの方へ流れていく。
「なにこれー気持ちいい・・・」
「だろ?」
得意げなハル君の声がすぐ近くで聞こえる。
考えてみればこんなにハル君と接近したのは初めてだ。
そう思うと急に鼓動が増してくる。
「ねえ、どこ行くのー?」
「中華街」

ハル君は石川町の駅前に自転車を止め、鍵をかけた。
「寒い・・」
後ろはびゅんびゅん風が当たって、正直鼻水が出ちゃいそうだった。それに20分位乗りっぱなしだったから膝ががくがくしてる。
「ほら、これ」
そういってハル君が自分のマフラーを放り投げてくれた。
「え、いいの?」
私は必死で鼻をすすり、取り繕いながらきいた。
「うん、オレむしろ暑いくらい。さ、行こ」
そう言ってハル君は私の手を取って歩き始めた。この前のデートから、ハル君はちょっと大胆になったみたい。
でもこういう大胆さは大歓迎なんだ、女の子としては。
「ありがとね、マフラー」
「おう。深久の手、冷たいな。風邪引くなよ?あ、ラーメン食べねえ?」
「いいね」

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