★まいどご愛読謝々。常連さん以外にもさっくり話がわかるように少しまとめてみました。中山早生、24歳予備校教師。実の妹・深久がスキ。☆中山深久、20歳大学生。バイト先の年下の高校生・ハルとつきあっている。☆カナコ、予備校の生徒。早生が好き。☆本田。早生の親友。☆サキ。早生の元彼女。先日早生と再会して関係復活?//早生は深久への気持ちを断ち切ろうと苦悩し、深久は複雑な家庭環境から発する兄への依存心を断ち切ろうとする(ていうか早生の事なんか眼中にねえよくらいハルとらぶらぶな)すれ違い物語。でも最近深久の気持ちに少しだけ変化が・・・?詳しく読みたい方は http://members.tripod.co.jp/raita_/index-1.html へジャンプ!★

声を掛けてみたが返事がない。
「寝てるのか?」
近づき、そっと肩を揺さぶるとぱしっと後ろ手に深久がそれを振り払った。
「ごめん・・・怒ってる?」
深久は何も言わず、動きもしない。
「昨日は心配したろ?怒るの当たり前だよな。俺今お前がいなくなったかと思って凄く心配した。お前は一晩中あんな気持ちでいたんだよな?・・ごめんな。今度からはきちんと連絡するから」
それでもまだ深久は動かなかった。
相当怒っているようだ。
「・・・じゃあ、おやすみ」
仕方ないと思い、背を向けてドアを閉めようとした時だった。
「もう帰ってこないかと思った・・・」
か細い、潰れそうな声だったけれど、俺の耳には確かに聞こえた。
「・・・帰ってくるよ、俺は」
言いながら、先刻とは違う痛みに囚われてしまう。
瞬間、頭を横切ったのは父や母の顔だった。
自分のことだけにかまけて子供を放っておいた親たち。
帰りをいつまでも待ちながら過ごす夜。
もう二度と帰ってこないかもしれないという不安を抱え込み、ドアの音に耳を澄ませて眠った日々も、2人でいたから何とか乗り越えてきた。
・・・俺が同じことしてどうすんだよ。
えぐられるように、胸がきしむ。
俺はベッドに駆け寄り、背を向けたままの深久を後ろから毛布ごと抱きしめた。
「深久・・深久、ほんとにごめん。俺は必ず帰ってくるから。お前を独りにしないから。もう二度と」
今度は深久も振り払わなかった。
その代わりに、首に回した腕を両手で握り返してくる。
深久の左耳の辺りに顔をうずめていると後悔と愛おしさが急速に全身に駆け巡り、俺は動くことができなかった。
「怖かった・・・怖かったの」
「うん・・うん。ごめんな」
ぽたぽたと大粒の涙がこぼれ落ちるのがわかり、俺はせりあがってくる想いのままに、抱きしめる腕に力を込めた。
どうして独りにしておくなんて残酷な事ができたんだろう。
俺は自分のことしか見えていなかった。
愛されないことに拗ねていたんだ。
こんなにも必要とされているのに。

しばらくして落ち着いてくると、涙声のまま深久がつぶやいた。
「私の方こそごめんね。なんか子供みたいだね、こんなの」
「いいんだ。泣きたいときは泣けばいい」
「でもこんなんじゃお兄ちゃんを縛ってるみたいで・・・すごく嫌なのに」
「縛られてるなんて俺は思ったことないよ」
むしろこうして依存されることがたまらなく心地いいなんておかしいだろうか?
頼られる度にこんなにも満たされることは。
・・・俺も、深久の存在に依存してる。おそらく。

ふと、なにかひっかる物を感じて、俺は神経を研ぎ澄ませた。深久の首に回した腕に微かにかかる息が熱く、湿っぽい。
「お前、もしかして・・・」
そっと額に手を当てると明らかに平常の体温を越えている。
「熱があるじゃんか。風邪か・・?」
「多分・・・」
「ばか、寝てろ。夕飯は食ったのか?」
頭が重いのか、ゆっくりと首を横に振る。
「朝と昼は?」
「食べた・・・」
「何を?」
とっさに答えが出てこない深久を横にさせ、布団を掛けてやった。
「食ってないんだな?おかゆ作るから待ってろ」
「あ・・・平気。食欲ないから・・・」
「食えねえんなら医者連れてくぞ」
「・・・食べます」
部屋を出て行きかけて、ふと俺は振り返った。
布団を鼻の辺りまでかぶってこちらを見ている深久と、目が合う。
「お前が辛いの気づかないで留守にしてごめんな」
「いいの・・もう。帰ってきてくれたから」
もう一度抱きしめてやろうかと思ったくらいの愛おしさを胸にしまいこんで、俺はキッチンへと向かった。

水分多目のミルク粥を作り、ドアをノックしたが返事がなかった。
「あ、お兄ちゃん」
うとうとしていたのか、ぼんやりした顔で深久ガ起き上がろうとする。
「俺が食わしてやろうか?」
「自分で食べられるよーああくらくらする・・・」
「急に起き上がるからだよ。解熱剤服むか?」
「いい。いただきます・・・」
力なく湯気を吹き飛ばす深久の頬は薄暗い室内でも見て取れる程上気している。
「おいしい」
儚いような笑みを浮かべて、俺を見上げてくる。
「無理すんな。食べられるだけでいいから」
「ん・・・ごめんね。おいしいんだけど、全部は無理かも」
「気にするな」
言いながら俺はパジャマの替えをベッドサイドに置いた。
「後で汗かいたら着替えろよ。俺に脱がされるのは嫌だろ?」
「イヤ」
笑いながら深久がゆるゆるとまた布団にもぐりこむ。
そっと額にかかる髪をかき上げて手を当てると、かなり高い熱が掌を通じて伝わってくる。
「平気だよ。お兄ちゃんの手、冷たくて気持ちいいな」
「タオル冷やしてくるよ」
「待って・・ドア、閉めないで」
「・・どこにもいかないよ」
「うん。でも・・暗いの怖いの」

タオルと氷水をもって戻ってくると、熱い息を吐きながら深久は眠っていた。
今度はあっという間だったようで、俺が入ってきたことにも気づかない。
目じりに涙がにじんでいた。
風邪で苦しいせいだろうか。それとも・・悪い夢でも見ているんだろうか。
絞ったタオルをのせてやると一瞬まゆをしかめたが、すぐにふわりと力が抜けて、静かな寝息を立て始めた。
そっと目元に唇を寄せてみる。
触れた部分はやはり熱い。
今は穏やかに眠る深久に、俺はもう一度だけあやまり、そっとささやきかけた。
「愛してるよ」と。

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