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2003年5月6日俺はカナコのその言葉を笑い飛ばした。
「勘違いしてるよ、沢木さん。確かに深久の事は大切だけど、それは妹としてだ。シスコンって言われりゃそうかもしれないけどね」
「ふうん」
半信半疑の顔をしてから、カナコはにこっと笑った。
「それじゃ私がエントリーしてもいい?」
「何に?」
「彼女候補」
「あのさあ・・・」
俺はため息をつきながら脚を組んだ。
「俺の気持ちは関係なし?」
「悪い気はしないでしょ?」
・・・まったく、それはその通りかもしれないけど。
「とりあえず言っとくけどさ、俺は沢木さんに恋愛感情ないよ?」
「でも迷惑とは思ってないよね?」
真剣な顔をして、カナコが身を乗り出してくる。
「ちょっと迷惑」
「そのちょっと、は私が予備校の生徒でまだ高校生だからってイミよね?それ以外に理由はある?」
「いや・・・」
俺が返答に詰まるとカナコはよかった、と嬉しそうに笑った。
「じゃあ私が大学に受かって高校卒業したら問題ないじゃない?」
それはまあそう・・・だけど。それでもとてもとても困るんだけどな。
「ほんとは今すぐにでも付き合ってもらいたいんだけど、しょうがないか。ちょっとだけ待っててあげる」
「・・沢木さん、勝手に話進めないでよ」
俺は本日何度目かのため息をつく。
「俺さ、好きな人がいるの。だから勘弁して」
「・・・誰?」
カナコの顔から笑顔が消えた。
「君の知らない人」
「その人のこと、みくさんより好き?」
「え・・ああ、うん」
予想もしない問いかけに俺は瞬間戸惑った。
その一瞬を、カナコは見逃してくれないだろう。
本音を言えばこの駆け引きのようなぎりぎりのやりとりがぞくぞくするほど刺激的だった。
頭の回転が早いカナコと話すのは怖い。
でも、レスポンスのスピードがたまらなく心地よい。
彼女と話しているといつも感じることだ。
だけど・・カナコと付き合うつもりはないのだ。
打てば俺を上回って返ってくるその言葉を封じるために、俺は洗いざらいぶちまけようかと思った。
深久のことを。
でも違う。
違う。
それは自己満足だ。
カナコはそんなことで納得しないだろう。
俺は深久を愛していようとも、それ以上どうにかなろうなんて思っていないのだから。
「ねえせんせい。もしかしてみくさんと血が繋がってないの?」
「いや・・・」
俺の頭の中に高校生の自分が蘇った。
強い期待を抱き役所に行った。
震える手で戸籍謄本を開き・・・絶望が確定した日のことが。
あの日を境に、永久に俺は兄で、深久は妹になった。
微塵の希望も許されなくなった。
「それなら・・幸せになれないよ?」
カナコの声が遠く響く。
やはり彼女は見抜いてるのか。
言わなくても、俺の気持ちを。
でもどうして誰もかれもそう言うんだろう?
俺は一緒にいるだけで幸せなんだ。
それじゃどうしていけないんだろう。
「関係ないよ。深久は妹だってさっきから言ってるじゃん。俺の好きな人は大学時代の同級生だから」
しらを切り通す以外、手立てがない。
「・・・わかった」
カナコは俺の顔を見ずに立ち上がり、教室を出て行く。
泣き出しそうに見えたのは俺の気のせいだろうか?
心臓の辺りが、少し痛む。
カナコに少しだけ惹かれている自分も、いる。
確かにここに存在する。
でもイヤだった。
また俺は誰かを代理にするのか?
今度は深久の代わりにカナコを抱いて傷つけて。
同じことの繰り返しじゃないか?
あんな罪悪感はもう二度と、味わいたくない。
俺はよろよろと立ち上がり、教員室にバッグとコートを取りに行くと駐車場に向かった。
外に出てすぐに、携帯が鳴った。
知らない番号。
「はい、もしもし・・・?」
(せんせい?)
「沢木さん?・・・なんで」
俺は本当に驚いた。携帯の番号は、教えたことがない。
俺の問いかけを無視してカナコはささやきかけるように言った。
(それでも私、せんせいのことが好きよ?だから忘れないでね。卒業したら、覚悟しといてね)
いつもの強気の口調。
「わかったよ」
唐突に、回線が切れた。
振り回されている。
でも、イヤじゃない。
そう、イヤじゃない。
カナコの気持ちが嬉しかった。
初めて気付いた。
俺は、愛されたいんだ。
俺が深久を激しく想うのと同じ位くらい、愛されたいんだ。
車に乗って思い出した。
そういえばこの前この車に乗せた時、カナコが俺の携帯をいじっていた。
あの時か。
番号を暗記したのだろう。
「食えないなあ・・・」
そんな風に振り回されるのも、なかなか悪くはなかった。
★ライターのハイテンション・生日記も読んでね♪http://members.tripod.co.jp/raita_/index-2.html 他にもコンテンツいっぱい増やしました★
「勘違いしてるよ、沢木さん。確かに深久の事は大切だけど、それは妹としてだ。シスコンって言われりゃそうかもしれないけどね」
「ふうん」
半信半疑の顔をしてから、カナコはにこっと笑った。
「それじゃ私がエントリーしてもいい?」
「何に?」
「彼女候補」
「あのさあ・・・」
俺はため息をつきながら脚を組んだ。
「俺の気持ちは関係なし?」
「悪い気はしないでしょ?」
・・・まったく、それはその通りかもしれないけど。
「とりあえず言っとくけどさ、俺は沢木さんに恋愛感情ないよ?」
「でも迷惑とは思ってないよね?」
真剣な顔をして、カナコが身を乗り出してくる。
「ちょっと迷惑」
「そのちょっと、は私が予備校の生徒でまだ高校生だからってイミよね?それ以外に理由はある?」
「いや・・・」
俺が返答に詰まるとカナコはよかった、と嬉しそうに笑った。
「じゃあ私が大学に受かって高校卒業したら問題ないじゃない?」
それはまあそう・・・だけど。それでもとてもとても困るんだけどな。
「ほんとは今すぐにでも付き合ってもらいたいんだけど、しょうがないか。ちょっとだけ待っててあげる」
「・・沢木さん、勝手に話進めないでよ」
俺は本日何度目かのため息をつく。
「俺さ、好きな人がいるの。だから勘弁して」
「・・・誰?」
カナコの顔から笑顔が消えた。
「君の知らない人」
「その人のこと、みくさんより好き?」
「え・・ああ、うん」
予想もしない問いかけに俺は瞬間戸惑った。
その一瞬を、カナコは見逃してくれないだろう。
本音を言えばこの駆け引きのようなぎりぎりのやりとりがぞくぞくするほど刺激的だった。
頭の回転が早いカナコと話すのは怖い。
でも、レスポンスのスピードがたまらなく心地よい。
彼女と話しているといつも感じることだ。
だけど・・カナコと付き合うつもりはないのだ。
打てば俺を上回って返ってくるその言葉を封じるために、俺は洗いざらいぶちまけようかと思った。
深久のことを。
でも違う。
違う。
それは自己満足だ。
カナコはそんなことで納得しないだろう。
俺は深久を愛していようとも、それ以上どうにかなろうなんて思っていないのだから。
「ねえせんせい。もしかしてみくさんと血が繋がってないの?」
「いや・・・」
俺の頭の中に高校生の自分が蘇った。
強い期待を抱き役所に行った。
震える手で戸籍謄本を開き・・・絶望が確定した日のことが。
あの日を境に、永久に俺は兄で、深久は妹になった。
微塵の希望も許されなくなった。
「それなら・・幸せになれないよ?」
カナコの声が遠く響く。
やはり彼女は見抜いてるのか。
言わなくても、俺の気持ちを。
でもどうして誰もかれもそう言うんだろう?
俺は一緒にいるだけで幸せなんだ。
それじゃどうしていけないんだろう。
「関係ないよ。深久は妹だってさっきから言ってるじゃん。俺の好きな人は大学時代の同級生だから」
しらを切り通す以外、手立てがない。
「・・・わかった」
カナコは俺の顔を見ずに立ち上がり、教室を出て行く。
泣き出しそうに見えたのは俺の気のせいだろうか?
心臓の辺りが、少し痛む。
カナコに少しだけ惹かれている自分も、いる。
確かにここに存在する。
でもイヤだった。
また俺は誰かを代理にするのか?
今度は深久の代わりにカナコを抱いて傷つけて。
同じことの繰り返しじゃないか?
あんな罪悪感はもう二度と、味わいたくない。
俺はよろよろと立ち上がり、教員室にバッグとコートを取りに行くと駐車場に向かった。
外に出てすぐに、携帯が鳴った。
知らない番号。
「はい、もしもし・・・?」
(せんせい?)
「沢木さん?・・・なんで」
俺は本当に驚いた。携帯の番号は、教えたことがない。
俺の問いかけを無視してカナコはささやきかけるように言った。
(それでも私、せんせいのことが好きよ?だから忘れないでね。卒業したら、覚悟しといてね)
いつもの強気の口調。
「わかったよ」
唐突に、回線が切れた。
振り回されている。
でも、イヤじゃない。
そう、イヤじゃない。
カナコの気持ちが嬉しかった。
初めて気付いた。
俺は、愛されたいんだ。
俺が深久を激しく想うのと同じ位くらい、愛されたいんだ。
車に乗って思い出した。
そういえばこの前この車に乗せた時、カナコが俺の携帯をいじっていた。
あの時か。
番号を暗記したのだろう。
「食えないなあ・・・」
そんな風に振り回されるのも、なかなか悪くはなかった。
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