「夏の光」 まさかこのまま帰れなんて言わないよね?
2003年5月13日一瞬でそこまで見抜くカナコには本当に驚かされる。
この子の目から見ると世界はどんな風に映っているんだろう?
奥深いものなのか。それとも味気ない事象で埋め尽くされているのか。
まったくあの拙いキスにこの直感と分析力。
そんなアンバランスで底の知れないカナコという存在はやはり魅力的だと俺は思う。
「まあ考えとくよ。沢木さんちってこっちでよかったよね」
俺は右にハンドルを切りながらカナコに聞いた。
「ちょっとまさかこのまま帰れなんて言わないよね?」
カナコが不服そうに抗議の声を上げる。
「近くまで送るよ」
「そうじゃなくて・・・わかってるんでしょ?あそこまで応えておきながらやっぱり妹以外では勃ちません、なんて言う気?」
言いながら身を乗り出してハンドルを無理に左に回そうとするカナコをひきはがし、慌てて右に戻す。
「何やってんだよ・・・ったくこの子は」
ため息混じりに横目でにらんでやると、カナコが唇を尖らせているのが見えた。
その仕草があまりにも幼くて、俺はつい笑わされてしまった。
「何よ、ちゃんと笑えるんじゃない」
「沢木さんは面白いよ、ほんとに」
「面白い?しっつれーね。口説くんだったらもっとましな言葉あるでしょ?」
「はいはい」
「またそうやってさっくり終わらせて・・・性格悪いよ?」
「自覚してるよ」
「サイアク」
カナコと下らない話をしているうちに、俺は少しずつ自分のペースを取り戻してきていることに気付いた。
カナコに誘導されて?
もしかしたら、そうかもしれない。
もしかしたら俺は、沢木カナコの掌で踊らされているのかもしれない。
「ねえ」
ふとカナコは顔を曇らせて聞いてきた。
「私を送るのはいいけど・・・せんせい、今日帰れるの?」
言外に深久の元へ、というイミを含ませて。
「帰るさ」
別に何も変わらない。そんなことで切れたりはしないのだ。血の絆は。
それがまた憎らしくもあるのだが。
いっそのこと壊れてしまった方が楽なのに。
「帰って欲しくないな」
カナコも言う。
「さっきのキスは幻じゃないよね?」
「そうだね」
「ね、ちょっとの間だけでもこっち見ててくれるんならせんせいが壊れるのも悪くないね」
「ひでえよそれ」
「嘘。だって・・私にとっても、凄く凄く切ないのよ?」
またどこか連れて行くからと約束し、カナコはようやく解放してくれた。
おやすみのキス一回のおまけ付きで。
少し走った後、自販機で煙草を買ってから車に戻りシガーライターで火をつけると、しんと静まり返った。
一人きりの車内はやけに暗く感じる。
夏の光みたいな少女。
存在自体が光を放っているのかもしれない。
動き出してしまった。
多分もう、止められない・・・。
煙を大きく吸い込んでから気持ちを切り替え、俺は深久を思った。
「さて、どうするか・・・」
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この子の目から見ると世界はどんな風に映っているんだろう?
奥深いものなのか。それとも味気ない事象で埋め尽くされているのか。
まったくあの拙いキスにこの直感と分析力。
そんなアンバランスで底の知れないカナコという存在はやはり魅力的だと俺は思う。
「まあ考えとくよ。沢木さんちってこっちでよかったよね」
俺は右にハンドルを切りながらカナコに聞いた。
「ちょっとまさかこのまま帰れなんて言わないよね?」
カナコが不服そうに抗議の声を上げる。
「近くまで送るよ」
「そうじゃなくて・・・わかってるんでしょ?あそこまで応えておきながらやっぱり妹以外では勃ちません、なんて言う気?」
言いながら身を乗り出してハンドルを無理に左に回そうとするカナコをひきはがし、慌てて右に戻す。
「何やってんだよ・・・ったくこの子は」
ため息混じりに横目でにらんでやると、カナコが唇を尖らせているのが見えた。
その仕草があまりにも幼くて、俺はつい笑わされてしまった。
「何よ、ちゃんと笑えるんじゃない」
「沢木さんは面白いよ、ほんとに」
「面白い?しっつれーね。口説くんだったらもっとましな言葉あるでしょ?」
「はいはい」
「またそうやってさっくり終わらせて・・・性格悪いよ?」
「自覚してるよ」
「サイアク」
カナコと下らない話をしているうちに、俺は少しずつ自分のペースを取り戻してきていることに気付いた。
カナコに誘導されて?
もしかしたら、そうかもしれない。
もしかしたら俺は、沢木カナコの掌で踊らされているのかもしれない。
「ねえ」
ふとカナコは顔を曇らせて聞いてきた。
「私を送るのはいいけど・・・せんせい、今日帰れるの?」
言外に深久の元へ、というイミを含ませて。
「帰るさ」
別に何も変わらない。そんなことで切れたりはしないのだ。血の絆は。
それがまた憎らしくもあるのだが。
いっそのこと壊れてしまった方が楽なのに。
「帰って欲しくないな」
カナコも言う。
「さっきのキスは幻じゃないよね?」
「そうだね」
「ね、ちょっとの間だけでもこっち見ててくれるんならせんせいが壊れるのも悪くないね」
「ひでえよそれ」
「嘘。だって・・私にとっても、凄く凄く切ないのよ?」
またどこか連れて行くからと約束し、カナコはようやく解放してくれた。
おやすみのキス一回のおまけ付きで。
少し走った後、自販機で煙草を買ってから車に戻りシガーライターで火をつけると、しんと静まり返った。
一人きりの車内はやけに暗く感じる。
夏の光みたいな少女。
存在自体が光を放っているのかもしれない。
動き出してしまった。
多分もう、止められない・・・。
煙を大きく吸い込んでから気持ちを切り替え、俺は深久を思った。
「さて、どうするか・・・」
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