(σ・∀・)σ44ゲッツ!

ここ最近、深久は毎日ハルと会っているみたいだった。
一緒に映画を観に行った日以外は大抵帰りが遅い。
その事を考えるだけで憂鬱だ。
映画の時の深久はかなりおかしかったけど、今日だってかなりヘンだ。
上の空で、いつもの明るさの欠片もない。
ハルとケンカでもしてくれたんだったら手を叩いて喜ぶけれど、もしその逆だったら・・・?
他の何も目に入らないほどハルに夢中だったら。
そう考え出すと居たたまれなくなる。
何も考えずに酒でも飲んで眠れれば、そう思っていたけれど不思議と目は冴えるばかりだ。
俺は手にしたジントニックを少しだけあおる。

ここ最近、あまり眠れていない。
明け方2〜3時間熟睡するだけ。夢も見ない。
眠りは一日の情報の整合をするための能力と確か聞いたような気がするけれど、
多分今の自分は昨日の情報を蓄積することすら拒否しているんだと思う。
忘れてしまいたい。
いっそ記憶がなくなれば、全ての関係を一から築き直せるかもしれない。
リセットして、ただの妹へ。

冷蔵庫にもたれながら、そんな薬にもならないことを考えていると、
いきなりグラスが取り上げられた。
「深久・・」
「苦いよ、これ・・・」
ひとくち舐めるように口をつけて、すぐに深久が顔をしかめてみせた。
「お前の舌がお子様なんだよ」
「そうだね」
あれ、と思った。いつになく素直だ。
普段だったらここで必ずなにか言い返すのに。
「私もなにか飲もうかな・・・」
「寝るんじゃなかったのか?」
「眠くないんだもん」
「じゃあ甘いやつ作るよ」
すると深久は首を横に振った。
「お兄ちゃんと同じのがいい」
「無理しなくても・・・オレンジあるし」
俺が立ち上がって冷蔵庫を開けようとすると、その手を深久が制して頑なに拒む。
「いいの。お兄ちゃんの半分ちょうだい?」
そう言うと一気に飲み干してしまった。
「おい、半分って・・・全部じゃん」
「いいでしょ、別に。うわ、まずい・・」
俺は吹き出してしまった。こいつ、何を強がってるんだろう。
「だから無理すんなって・・まったく、最近なんかヘンだぞ、お前」
「へん?どこが!?」
勢いよく深久が問いただしてくる。
そういうところがだよ、と言いたい。
「変というか・・・まあいいよ。とにかくここは寒いから居間にいこうぜ」
「お兄ちゃんは座ってたじゃない、ここに」
どうしたんだろう。今日の深久はやけに絡んでくる。
やっぱりおかしい。
「深久」
腕をとろうとすると深久がびくん、と固まった。
ふう、と俺はため息をつき、手を離した。
「ハルと何かあったのか?」
「ハル君?どうして?何もないよ」
固まったまま、深久はまっすぐ見つめ返してくる。アルコールが回り始めたのか、その頬はわずかに桃色に染まっている。
「それならいいんだ」
「いいの、本当に?」
聞き返されて俺は戸惑った。
「何が言いたいんだよ?」
「ねえ、もし私がハル君じゃなくて本田さんと付き合うって言ったらどうする?」
唖然として俺はよろけてしまった。どん、と音を立てて背中が冷蔵庫に当たってしまう。
「本田と・・・?何で」
声が上ずるのを止められなかった。目の前が一気に暗い。
「例えばの話よ」
言い捨てて深久はくるりと背を向けて歩き出した。
「待てよ深久、何なんだよそれ」
肩をつかんで無理に引き止めると背を向けたまま、深久は力なくつぶやいた。
「そんなことありえないわ。ごめんね」

訳がわからない。どうしていきなり本田の名前が出てくるのか。
動揺を抑えきれないままに俺は煙草に火をつけた。
本田は俺の気持ちを全部知ってる。
どんな時でも厳しく諌め、見守り、アドバイスをくれた。
深久が昔本田に憧れていたのは知ってる。
でも今更、なぜ?
驚きと焦りが手を取り合って踊っている。俺はそれに振り回されていた。
どこかでハルの事をナメていたのかもしれない。
あいつは本当の意味で、深久の事を連れて行ったりはしないと。
でも本田は・・あいつなら。
自分以外で深久を幸せにできるかもしれない男。
いやもしかしたら、俺よりも。

今更のようにそのことに気付き愕然とした。
指にはさんだままの煙草が長い灰になり床に落ちるまで、俺はずっと考え込んでいた。
俺は煙草をねじり消し、携帯を取り出して本田に電話をかけた。
(はあい、早生ちゃん)
2コール程でいきなり場違いなくらいの陽気な声に繋がった。
「・・・楽しそうだな」
(そっちは随分不機嫌だねえ。何かあった?み・く・ちゃ・ん・と)
不自然なほど強調して言う本田の言葉で直感的に確信した。
「今日深久と話したろ?」
(あら。もうバレたんだ。早いなあ、おい)
「何話したんだよ?」
いらいらしながら俺が言うと本田は回線の向こうでくすくす笑った。
(まあそう怒るなよ・・リツコ、重いからちょっと降りてくれる?ごめんね、大事な話)
あん、という甘い声を電波が拾い、俺は苦笑した。彼女がきているのだろう。
(あーもしもし)
「悪かったな、お楽しみの最中に」
(まったくだ。高くつくぜ。・・・深久ちゃんのこともね)
顔を引き締めて俺は本田の言葉を待った。
(誤解されちゃうと困るから先に言っとくけど、深久ちゃんがオレをご指名してきたんだよ?)
「ああ、そうだろうな。で?」
(石を投げたのさ)
「石?」
俺が聞き返すと本田は人の悪い声で笑った。
(深久ちゃん気付いてるみたいだぜ、早生ちゃんの気持ちに)

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