「衝動」〜集中豪雨のようなシャワーの中で、俺は深久の唇を奪った〜
2003年5月26日(σ・∀・)σ48ゲッツ!
カナコ希望のパスタのお店で食事した後、車に乗り込んだときにはい、と小さな紙袋を渡された。
「あんまりお菓子作ったことないんだけど」
カナコがくれたのは手作りのブラウニーだった。
「うん、うまいよ。ありがとう」
「よしてよ。そんな真面目にお礼言われると照れるわ」
「沢木さんでも照れることあるんだ?」
「あのねえせんせい、私のことちゃんと人間扱いしてる?」
飛躍したその物言いに俺はつい笑ってしまった。
「ひっどい。笑うことないじゃない・・・」
人間扱い、か。
このスーパー美少女は確かに人間臭さを感じさせないようなところがあった。
コンピュータが高速回転しているかのような切れ味の鋭い思考と野生動物のような勘、植物のような清廉さ。
そして、陽光が降り注ぐような情熱。
人がおよそ思い描くほとんどの願望を身にまとって生きているような存在だ。
「いや、沢木さんってあんまり物事に動じないように見えるからさ」
照れくさいって感情くらいはちゃんとあるわよ、と言いながらカナコはスカートの裾を伸ばした。
今日は制服ではなく、薄い生地でできたワンピースを着こなしていた。
きゃしゃな彼女にそれはなかなか似合っていて、いつもより大人びて見せるのに成功している。
「それよりせんせい、私には何をくれるの?合格祝い」
「まだ国立残ってるだろ?」
「え・・ずっるーい。今日帰らないかもって親には言ってきたのにな」
「何言ってんだよ。ちゃっちゃと帰って次の対策考えなさい」
「あーやだやだ、こういうトキだけ先生面するのね?」
家の近くまで車を走らせて止めると、カナコはシートベルトを外したけれど降りようとしなかった。
「ねえせんせい、約束だから私卒業するまでは待つけどね・・・ホントは帰りたくない」
「俺はそろそろ帰って眠りたいな」
「冗談にしないで」
カナコが小さな声でつぶやいた。後ろから車が一台追い抜いて行き、テールランプが一瞬だけカナコの顔を赤く染める。
「みくさんの所に帰したくない。・・・わかるでしょ?」
「沢木さんが期待するようなことはなにもないよ。深久は今日もカレシと会うって言ってたし」
「キスして」
「ああ?」
「そしたらおとなしく帰るから」
「しなくてもおとなしく帰れよ」
「もう、けち」
そういう問題か?と思ったが言い返しても何だか無理矢理奪われそうで怖い。
仕方なく助手席の方へ身体を乗り出し両手で頬をはさんで、カナコの額より少し上の髪に素早くキスして俺は離れた。
「なにそれ、ずるくない?」
「場所の指定はなかったろ?」
俺は帰りなさい、と手で合図した。
「もう・・・次はその手は通用しないからねっ」
そう言いながらも素直にカナコは車を降りてドアを閉めた。
唇がおやすみなさい、という形に動く。
もう一度手を振って、俺は車を発進させた。
深久との約束にはぎりぎり間に合いそうだ。
途中信号を2回ばかりフライングでクリアして、駐車場からマンションまでを必死に走った。
エレベーターを待つのももどかしい。4階まで階段を一個飛ばしで駆け上がる。
こんなに走ったのはいつ以来だろう?
肺と心臓が苦しかったけれど、深久のささやかなわがままは叶えてあげたかった。
いや、違う。
本当は俺は嬉しかったんだ。
早く帰ってきて欲しいと初めて言ってくれた深久の気持ちが。
0時1分前くらいに何とか駆け込むと、深久が出迎えてくれた。
だけど、今は何故か泣いている。俺の腕の中で。
「なんで泣いてるんだよ?」
戸惑って聞くと、深久は顔を上げて、笑った。
「もう、泣いてない」
確かに潤んでいるけれどその笑顔は本物で、心打たれるほど清くて穏やかな目をしていた。
「あ、そうだ。早くあがって?お兄ちゃんにチョコレート渡さなきゃ」
ぱっとしがみついていた手を離し、深久が小走りにキッチンへ向かった。
深久の笑顔の引力は絶大だ。
なんでこいつはこんなにかわいいんだよ?
「はい。開けてみて?」
ソファに腰掛けて包みをほどくと、出てきたのはトリュフだった。
「あ、俺これ好き」
「うん、前も言ってたもんね」
オレンジのリキュールがほのかに香るチョコは少しだけ苦くて、でも甘い。
「深久からのが一番嬉しい」
そう言うと深久は急に顔を曇らせた。
「そんなこと言ってさー。あの人からももらったんだよね」
その言い方はまるですねているようで、からかいたくなってしまう。
「なんだよ、妬いてんの?」
冗談でいったつもりだったのに、深久の顔が耳まで真っ赤に染まった。
なんなんだよ、この反応は。これじゃまるで・・・
「お前だってハルにも渡してるんだろ?」
動揺して俺は聞きたくもないことを口走ってしまった。言った瞬間後悔したが深久は片付けしなきゃ、とキッチンへ引っ込んでしまった。
俺は少しだけほっとした。でもちりちりと胸を焦がす音がする。
妬いてるのは、俺の方だ。
走ったせいで身体が汗ばんでいた。外はとても寒いのにそれだけ必死で走っていたのだろう。
深久に声を掛けてから俺は風呂場へ向かった。
湯船に浸かっていると、どっと疲れが出てきて俺は目を閉じて後ろにもたれかかった。
眠れない日は続いていた。
深久・・・ハルとケンカしてるって本田は言ってたけど、本当なんだろうか。
だから泣いてたのか・・・?
急速に抱きつかれた時の感覚が蘇ってきた。
ほら、身体はこんなにも正直だ。
いつか毛布越しに抱きしめたのとは違う、肌を感じさせる深久の薄着姿に発情してしまう。
この前のハルも、きっとそうだったんだろう。無理矢理抱こうとして深久を傷つけた。
ハルには許されて、俺には許されない欲望。
深久はもうハルに抱かれたんだろうか・・・?
いつもどこかで恐れているその暗い感情がまた覆いかぶさってくる。
さっき焦がされたのとは程度の違う重い嫉妬に駆られ、叫びだしたくなるほどの独占欲に支配される。
深久を閉じ込めてしまいたい。
誰にも触れさせないように、オリの中に。
鍵をかけて俺だけのものにして。
「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん!」
「え?」
「・・・ああ、よかった」
気がつけば風呂場に深久がいて、今にも泣き出しそうな顔で俺をのぞき込んでいる。
どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
「2時間近くも出てこないんだもん。倒れたかと思ったよ・・」
「わりぃ、寝てた」
すっかりお湯が冷めて温水プールのようになっている。
「寒・・・」
俺は立ち上がってシャワーの蛇口をひねった。たちまち熱い湯気が浴室中に立ち昇る。
「アタリマエよ。追い炊きしてあったまった方がいいよ」
そう言って慌てて出て行こうとした深久の腕を俺は反射的につかみ、抱き寄せてしまった。
まどろみの中で頭の中をめぐっていた想いが形になって俺を突き上げてくる。
「ちょ・・・何やってんの!?」
深久の後ろからゆるく腰に腕をまわし、その髪に顔をうずめる。
ブルーのパジャマがあっという間にシャワーに染まり、深い青になってゆく。
身体が冷え切っていたせいで頭から降りかかるシャワーがまるでお湯のように熱い。
でも俺の内側はそれ以上に熱くなっていた。
「お兄ちゃんてば・・」
肌に張り付いた布が深久の身体のラインをなぞり、浮かび上がらせる。
「深久があっためて」
「何ばかなこと・・いってんのよ・・・・」
戸惑いが混じり、深久の声が上ずっている。
そういうところも愛しいと感じながら俺は耳元に愛してるよ、と囁いた。
あまりに小さな小さなその声は激しいシャワーの音にかき消されてしまう。
深久が何・・・?と聞き返してきた時、俺はこみ上げる衝動の強さに抗い切れず、無理矢理こちらを向かせて唇を重ねた。
叩きつけるようなシャワーの雨に打たれながら俺は思った。
家を、出ようと。
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カナコ希望のパスタのお店で食事した後、車に乗り込んだときにはい、と小さな紙袋を渡された。
「あんまりお菓子作ったことないんだけど」
カナコがくれたのは手作りのブラウニーだった。
「うん、うまいよ。ありがとう」
「よしてよ。そんな真面目にお礼言われると照れるわ」
「沢木さんでも照れることあるんだ?」
「あのねえせんせい、私のことちゃんと人間扱いしてる?」
飛躍したその物言いに俺はつい笑ってしまった。
「ひっどい。笑うことないじゃない・・・」
人間扱い、か。
このスーパー美少女は確かに人間臭さを感じさせないようなところがあった。
コンピュータが高速回転しているかのような切れ味の鋭い思考と野生動物のような勘、植物のような清廉さ。
そして、陽光が降り注ぐような情熱。
人がおよそ思い描くほとんどの願望を身にまとって生きているような存在だ。
「いや、沢木さんってあんまり物事に動じないように見えるからさ」
照れくさいって感情くらいはちゃんとあるわよ、と言いながらカナコはスカートの裾を伸ばした。
今日は制服ではなく、薄い生地でできたワンピースを着こなしていた。
きゃしゃな彼女にそれはなかなか似合っていて、いつもより大人びて見せるのに成功している。
「それよりせんせい、私には何をくれるの?合格祝い」
「まだ国立残ってるだろ?」
「え・・ずっるーい。今日帰らないかもって親には言ってきたのにな」
「何言ってんだよ。ちゃっちゃと帰って次の対策考えなさい」
「あーやだやだ、こういうトキだけ先生面するのね?」
家の近くまで車を走らせて止めると、カナコはシートベルトを外したけれど降りようとしなかった。
「ねえせんせい、約束だから私卒業するまでは待つけどね・・・ホントは帰りたくない」
「俺はそろそろ帰って眠りたいな」
「冗談にしないで」
カナコが小さな声でつぶやいた。後ろから車が一台追い抜いて行き、テールランプが一瞬だけカナコの顔を赤く染める。
「みくさんの所に帰したくない。・・・わかるでしょ?」
「沢木さんが期待するようなことはなにもないよ。深久は今日もカレシと会うって言ってたし」
「キスして」
「ああ?」
「そしたらおとなしく帰るから」
「しなくてもおとなしく帰れよ」
「もう、けち」
そういう問題か?と思ったが言い返しても何だか無理矢理奪われそうで怖い。
仕方なく助手席の方へ身体を乗り出し両手で頬をはさんで、カナコの額より少し上の髪に素早くキスして俺は離れた。
「なにそれ、ずるくない?」
「場所の指定はなかったろ?」
俺は帰りなさい、と手で合図した。
「もう・・・次はその手は通用しないからねっ」
そう言いながらも素直にカナコは車を降りてドアを閉めた。
唇がおやすみなさい、という形に動く。
もう一度手を振って、俺は車を発進させた。
深久との約束にはぎりぎり間に合いそうだ。
途中信号を2回ばかりフライングでクリアして、駐車場からマンションまでを必死に走った。
エレベーターを待つのももどかしい。4階まで階段を一個飛ばしで駆け上がる。
こんなに走ったのはいつ以来だろう?
肺と心臓が苦しかったけれど、深久のささやかなわがままは叶えてあげたかった。
いや、違う。
本当は俺は嬉しかったんだ。
早く帰ってきて欲しいと初めて言ってくれた深久の気持ちが。
0時1分前くらいに何とか駆け込むと、深久が出迎えてくれた。
だけど、今は何故か泣いている。俺の腕の中で。
「なんで泣いてるんだよ?」
戸惑って聞くと、深久は顔を上げて、笑った。
「もう、泣いてない」
確かに潤んでいるけれどその笑顔は本物で、心打たれるほど清くて穏やかな目をしていた。
「あ、そうだ。早くあがって?お兄ちゃんにチョコレート渡さなきゃ」
ぱっとしがみついていた手を離し、深久が小走りにキッチンへ向かった。
深久の笑顔の引力は絶大だ。
なんでこいつはこんなにかわいいんだよ?
「はい。開けてみて?」
ソファに腰掛けて包みをほどくと、出てきたのはトリュフだった。
「あ、俺これ好き」
「うん、前も言ってたもんね」
オレンジのリキュールがほのかに香るチョコは少しだけ苦くて、でも甘い。
「深久からのが一番嬉しい」
そう言うと深久は急に顔を曇らせた。
「そんなこと言ってさー。あの人からももらったんだよね」
その言い方はまるですねているようで、からかいたくなってしまう。
「なんだよ、妬いてんの?」
冗談でいったつもりだったのに、深久の顔が耳まで真っ赤に染まった。
なんなんだよ、この反応は。これじゃまるで・・・
「お前だってハルにも渡してるんだろ?」
動揺して俺は聞きたくもないことを口走ってしまった。言った瞬間後悔したが深久は片付けしなきゃ、とキッチンへ引っ込んでしまった。
俺は少しだけほっとした。でもちりちりと胸を焦がす音がする。
妬いてるのは、俺の方だ。
走ったせいで身体が汗ばんでいた。外はとても寒いのにそれだけ必死で走っていたのだろう。
深久に声を掛けてから俺は風呂場へ向かった。
湯船に浸かっていると、どっと疲れが出てきて俺は目を閉じて後ろにもたれかかった。
眠れない日は続いていた。
深久・・・ハルとケンカしてるって本田は言ってたけど、本当なんだろうか。
だから泣いてたのか・・・?
急速に抱きつかれた時の感覚が蘇ってきた。
ほら、身体はこんなにも正直だ。
いつか毛布越しに抱きしめたのとは違う、肌を感じさせる深久の薄着姿に発情してしまう。
この前のハルも、きっとそうだったんだろう。無理矢理抱こうとして深久を傷つけた。
ハルには許されて、俺には許されない欲望。
深久はもうハルに抱かれたんだろうか・・・?
いつもどこかで恐れているその暗い感情がまた覆いかぶさってくる。
さっき焦がされたのとは程度の違う重い嫉妬に駆られ、叫びだしたくなるほどの独占欲に支配される。
深久を閉じ込めてしまいたい。
誰にも触れさせないように、オリの中に。
鍵をかけて俺だけのものにして。
「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん!」
「え?」
「・・・ああ、よかった」
気がつけば風呂場に深久がいて、今にも泣き出しそうな顔で俺をのぞき込んでいる。
どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
「2時間近くも出てこないんだもん。倒れたかと思ったよ・・」
「わりぃ、寝てた」
すっかりお湯が冷めて温水プールのようになっている。
「寒・・・」
俺は立ち上がってシャワーの蛇口をひねった。たちまち熱い湯気が浴室中に立ち昇る。
「アタリマエよ。追い炊きしてあったまった方がいいよ」
そう言って慌てて出て行こうとした深久の腕を俺は反射的につかみ、抱き寄せてしまった。
まどろみの中で頭の中をめぐっていた想いが形になって俺を突き上げてくる。
「ちょ・・・何やってんの!?」
深久の後ろからゆるく腰に腕をまわし、その髪に顔をうずめる。
ブルーのパジャマがあっという間にシャワーに染まり、深い青になってゆく。
身体が冷え切っていたせいで頭から降りかかるシャワーがまるでお湯のように熱い。
でも俺の内側はそれ以上に熱くなっていた。
「お兄ちゃんてば・・」
肌に張り付いた布が深久の身体のラインをなぞり、浮かび上がらせる。
「深久があっためて」
「何ばかなこと・・いってんのよ・・・・」
戸惑いが混じり、深久の声が上ずっている。
そういうところも愛しいと感じながら俺は耳元に愛してるよ、と囁いた。
あまりに小さな小さなその声は激しいシャワーの音にかき消されてしまう。
深久が何・・・?と聞き返してきた時、俺はこみ上げる衝動の強さに抗い切れず、無理矢理こちらを向かせて唇を重ねた。
叩きつけるようなシャワーの雨に打たれながら俺は思った。
家を、出ようと。
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