(σ・∀・)σ30ゲッツ!

まだ、どきどきしてる。
心臓をおさえても少しも静まらない。
優しくかむように重ねられた唇の感触が鮮やかに残っている。
強引に割り込んできた舌が歯列の裏をなぞり上げた時のあの感触も。
思い出すだけでぞくぞくするようなキス。
ハル君とあんなキスを交わしたことはない。

「わりぃ、寝惚けたわ」
そう言ってお兄ちゃんは苦笑いしたけど、私は信じてない。
だってあの時私の名前を確かに呼んだ。
あれは、確信犯だ。
だとしたら・・・
身体が、熱くなる。
もしかしたらお兄ちゃんも私のこと好きなのかなってずっと考えてたけど、
自分に都合のいい幻想かもしれないっても思ってた。でも・・でも、もしかしたらホントのほんとに?
「どうしよう・・どうすればいいの?」
嬉しくて、また泣きそうになってしまう。
心臓のスピードはまだ止まらない。
濡れた頭にタオルを乗せ、私はベッドに腰掛けた。
冷たい唇だったな・・・
ふと、思った。
抱き寄せられた胸も腰に回された腕も、冷たかった。
ぬるくなったお湯が体温を奪ってしまったんだろう。
「風邪ひかないかな・・・」
ベッドから立ち上がりかけて、私はまた座ってしまった。
顔を合わせられない。
だってずっと兄妹として生きてきたのに、こういうのって照れくさすぎる。
ハル君と明日お別れして、それからお兄ちゃんに自分の気持ち伝えてみよう。
もしも本当に寝惚けてて私をあの人と間違えてキスしたんだとしたらかなり泣けるけど、それでもいいや。
だって好きになっちゃったんだもん。
もう、後には退けない。

ハル君にメールを打った。
明日、今日と同じ時間に駅前で待ち合わせしようって。
それから私は眠りに落ちた。
お兄ちゃんが出て行ったのにも気付かずに。

次に目覚めた時、お兄ちゃんはもういなかった。
キッチンのテーブルには一人分の食事が用意されていた。
でもそれはすっかり冷たくなっていた。
まさか・・
ずきん、と昨日とは違う種類の心臓の音を聞く。
どうしていないの・・?
まだ朝の6時だ。仕事に出るには早すぎる。
「お兄ちゃん・・・?」
あちこち探し回ったけど、いない。ベッドには眠った気配すら感じなかった。
どうして・・・!
急いで携帯を手に取り電話をかけようとした時、メールを受信していることに気付いた。
お兄ちゃんからだ・・。
震えそうになる手を叱咤してフリップを開く。
「仕事で遅くなるけど、必ず帰るから・・・?」
何度も何度もその一文を見直す。着信はついさっきになってる。
本当に?本当に帰ってくるの?
電話して確かめたい。・・・でも。
きっと今はメールの方がいい。直感的に、思った。多分お兄ちゃんは電話に出ない。
「待ってるから・・・早く帰ってきてね?」

バイトが終わった後駅前に向かうともうハル君が来ていて、
自転車のイスに腰掛けたまま手持ち無沙汰に足をぶらつかせていた。
「ハル君」
声を掛けるとハル君はバツの悪そうな笑顔を見せた。
「あ、深久・・・昨日はごめんな。オレちょっといらいらしてた・・・」
「うん、それはもういいの」
私は近くのベンチに腰掛けた。ハル君もその横に自転車を止め、隣に座った。
夕暮れが近い時刻で学校帰りの高校生や学生がちらほら駅に出入りしている。
そろそろ会社帰りのサラリーマンやOLでこの辺ももっと人通りが増えるだろう。
それでもどこかのお店に入るとか2人きりで話す気にはなれなかった。
「好きなヒトができたの」
単刀直入に私は切り出した。
ハル君の目をまっすぐ見て。
それはとても辛いことだった。目を、逸らしたくなる。
ハル君の目が見開かれ、青くなり、そして真っ赤になったのがわかった。
「・・あの男だろ」
「本田さんのこと?違うわ」
「じゃあ誰だって言うんだよ?」
いきなりハル君が立ち上がって言った。道を歩く人たちが数人振り返ってこちらを一瞥していった。
「ハル君の知らないヒトだよ」
私は座ったままハル君を見上げ、小さな嘘をつく。
ハル君との今までの会話の中にはお兄ちゃんの話が何度か出てきていた。
でも本当のことを言って信じてもらえる自信もない。
そして信じてもらう気も、ない。
ただ事実がそこにあればいい。
「ふたまた掛けてたのかよ?」
「ううん。まだ私の片想い」
ハル君の握られたこぶしは震えていた。・・・声も、同じように。
「オレのこと、嫌いになった・・・?」
喧騒が一気に遠のいた。
まるで今世界に2人だけ生き残ってる気分で。
私は穏やかに、首を横に振った。
「・・・もっと好きなヒトができただけ。ごめんなさい」
立ち上がって視線を合わせたままそう言うと、ハル君は何も言わずに自転車にまたがり、スピードを出して走っていった。

自分でも、ひどいことをしてるって思う。
私は冷たいのかな?
お兄ちゃんの事を自覚してからはハル君を傷つけることが怖くなくなった。
私は本当にハル君を好きだったの?
走り去っていくハル君を見つめながらふと、いつかあの自転車で二人乗りしたことを思い出した。
初めて山下公園でキスをした。
あの時のどきどきは、嘘じゃない。ちゃんと好きだった。そう、好きだった・・・。

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