「核心を避ける行為」〜やっと・・やっと会えた〜
2003年6月2日(σ・∀・)σ68ゲッツ!
俺は足早に駐車場に駆け込み、車を覗き込んで眉をひそめた。
助手席には誰もいない。
そして運転席に座っているのは、カナコだった。
ハンドルにもたれかかって目を閉じている。
こんこん、と窓を叩くとカナコは気付いて笑顔になり、ロックを外してドアを開けた。
「どういうことだよ?なんで沢木さんがいるの?」
「代わってもらったの」
「なんだよそれ」
「今日は私の誕生日だからって言ったら譲ってくれたんだもん」
「沢木さん、前に夏生まれって言ってたじゃん」
「そう、よく覚えてたね。嘘ついちゃった。だって・・せんせいと深久さんをふたりっきりにさせたくなかったんだもん」
しらっと言ってのけるカナコを無視して俺は、深久は?と聞いた。
「さあ?駅のほうへ歩いていったけど・・・」
「降りて」
「え?」
目を丸くしてカナコが聞き返した。
「今日は深久と話があるんだ。沢木さんの相手はできない。降りて」
「もしかしてせんせ・・・」
不安そうな表情で聞き返すカナコに俺は手で降りろと指示すると、カナコは渋々と降りた。
代わって俺は運転席に乗り込み、エンジンをかける。
「ねえ」
ドアに手を掛けカナコが不安げにのぞきこんできた。
「せんせい、怒ってるの・・・?」
敢えて無視してドアを閉め、俺はアクセルを踏み込んだ。
怒ってる?怒ってはいない。呆れてるだけだ。
大通りに出たところで信号に引っかかったついでに携帯を手に取る。
・・・繋がらない。圏外だ。
もしかしたらもう電車に乗ったか、地下街にでも入ってしまったのだろう。
俺は舌打ちをして煙草をくわえた。
信号が変わってしまったので手探りでライターを探す。
煙草と一緒に放り込んだつもりだったのになぜか手に触れない。
いらいらしながらシガーライターを押し込んだ。
駅へ向かう途中の道に入り、路肩に車を止めて煙草に火をつけた。
もう一度、携帯を回してみる。
今度は発信音がしたので俺は携帯を耳に押し当てた。
(お兄ちゃん・・?)
驚いたような深久の声がして俺は安堵した。
「今どこ?」
(えっと・・駅。横浜。カナコさんは?)
「置いてきた」
(どうして?カナコさんとデートすればよかったのに)
「約束だろ?今日はお前と。それにそういう風に言われると辛いんですけど。勝手にすればって言われてるみたいで」
(そんなこと・・・)
「まあいいや。すぐそこにいけると思う。何口?」
(ううん。ホーム)
「え?まさか乗るトコ?」
(うん)
「よかった、間に合って。東口に回れってくれる?」
(うん・・・今行くわ。あの・・ごめんね、勝手なことして)
「いいんだよ、沢木さんっていつもあんなだから。人を丸め込むのがうまいんだ」
東口のロータリーに車を回し、降りてから駅の方を見た。
すぐに深久が大きく手を振りながら駆け寄ってきて、俺に飛びついてきた。
「深久・・」
俺は驚いて深久を抱きとめる。
「やっと・・やっと会えた・・・お兄ちゃん!」
泣きじゃくる深久を、俺は固く固く抱きしめた・・・。
「本田、リンゴ持ってきたろ?」
「うん、すごくいっぱい。食べきれないくらい」
「あいつも途方に暮れてたよ。でもばあちゃんの愛だから無駄にはしないってさ」
「本田さんらしいね」
中華街の点心の店で俺たちは食後のコーヒーを飲んでいた。
他愛のない会話で場を繋いでゆく。
ほんの少しの沈黙も許されないかのように、言葉で二人の間を埋めていく。
今まではそんなこと一度もなかった。
同じ部屋で過ごしていても互いに好きなことをしていたし、沈黙が落ちたからといって気まずくなることもなかった。
けれど今は2人で必死に会話を捜している。
核心を避けて、遠回りして。
ある意味それはとても刺激的な行為であり、そして同時にとても大切な何かを失ってしまった気もした。
春の日差しのような清しい穏やかさを。
深久は表面上はいつもと何も変わらなかった。
明るいところで改めて見ると少しやつれたようにやせてはいたが、まっすぐに見つめてくる目に軽蔑や嫌悪の色はない。
むしろ人なつこさを増したようにいつもよりよく目が合った。
そしてよく笑い、よく食べた。
デザートにライチのアイスクリームを食べながら見せた幸せそうな表情は充分俺を満たした。
「おいしかった。ごちそうさまでした」
にこにこしながら頬を両手で押さえ、深久が言った。
夜も更けてきたというのに店内はそこそこ賑わっている。
カップルやサラリーマンも多く、とても落ち着いて話そうという雰囲気ではない。
それに何より、深久のこの笑顔をなくしてしまいたくはなかった。
「少し風にあたろうか」
★ライターのHPトップ。ジャンプはコチラ↓
http://members.tripod.co.jp/raita_/index-2.html ★
俺は足早に駐車場に駆け込み、車を覗き込んで眉をひそめた。
助手席には誰もいない。
そして運転席に座っているのは、カナコだった。
ハンドルにもたれかかって目を閉じている。
こんこん、と窓を叩くとカナコは気付いて笑顔になり、ロックを外してドアを開けた。
「どういうことだよ?なんで沢木さんがいるの?」
「代わってもらったの」
「なんだよそれ」
「今日は私の誕生日だからって言ったら譲ってくれたんだもん」
「沢木さん、前に夏生まれって言ってたじゃん」
「そう、よく覚えてたね。嘘ついちゃった。だって・・せんせいと深久さんをふたりっきりにさせたくなかったんだもん」
しらっと言ってのけるカナコを無視して俺は、深久は?と聞いた。
「さあ?駅のほうへ歩いていったけど・・・」
「降りて」
「え?」
目を丸くしてカナコが聞き返した。
「今日は深久と話があるんだ。沢木さんの相手はできない。降りて」
「もしかしてせんせ・・・」
不安そうな表情で聞き返すカナコに俺は手で降りろと指示すると、カナコは渋々と降りた。
代わって俺は運転席に乗り込み、エンジンをかける。
「ねえ」
ドアに手を掛けカナコが不安げにのぞきこんできた。
「せんせい、怒ってるの・・・?」
敢えて無視してドアを閉め、俺はアクセルを踏み込んだ。
怒ってる?怒ってはいない。呆れてるだけだ。
大通りに出たところで信号に引っかかったついでに携帯を手に取る。
・・・繋がらない。圏外だ。
もしかしたらもう電車に乗ったか、地下街にでも入ってしまったのだろう。
俺は舌打ちをして煙草をくわえた。
信号が変わってしまったので手探りでライターを探す。
煙草と一緒に放り込んだつもりだったのになぜか手に触れない。
いらいらしながらシガーライターを押し込んだ。
駅へ向かう途中の道に入り、路肩に車を止めて煙草に火をつけた。
もう一度、携帯を回してみる。
今度は発信音がしたので俺は携帯を耳に押し当てた。
(お兄ちゃん・・?)
驚いたような深久の声がして俺は安堵した。
「今どこ?」
(えっと・・駅。横浜。カナコさんは?)
「置いてきた」
(どうして?カナコさんとデートすればよかったのに)
「約束だろ?今日はお前と。それにそういう風に言われると辛いんですけど。勝手にすればって言われてるみたいで」
(そんなこと・・・)
「まあいいや。すぐそこにいけると思う。何口?」
(ううん。ホーム)
「え?まさか乗るトコ?」
(うん)
「よかった、間に合って。東口に回れってくれる?」
(うん・・・今行くわ。あの・・ごめんね、勝手なことして)
「いいんだよ、沢木さんっていつもあんなだから。人を丸め込むのがうまいんだ」
東口のロータリーに車を回し、降りてから駅の方を見た。
すぐに深久が大きく手を振りながら駆け寄ってきて、俺に飛びついてきた。
「深久・・」
俺は驚いて深久を抱きとめる。
「やっと・・やっと会えた・・・お兄ちゃん!」
泣きじゃくる深久を、俺は固く固く抱きしめた・・・。
「本田、リンゴ持ってきたろ?」
「うん、すごくいっぱい。食べきれないくらい」
「あいつも途方に暮れてたよ。でもばあちゃんの愛だから無駄にはしないってさ」
「本田さんらしいね」
中華街の点心の店で俺たちは食後のコーヒーを飲んでいた。
他愛のない会話で場を繋いでゆく。
ほんの少しの沈黙も許されないかのように、言葉で二人の間を埋めていく。
今まではそんなこと一度もなかった。
同じ部屋で過ごしていても互いに好きなことをしていたし、沈黙が落ちたからといって気まずくなることもなかった。
けれど今は2人で必死に会話を捜している。
核心を避けて、遠回りして。
ある意味それはとても刺激的な行為であり、そして同時にとても大切な何かを失ってしまった気もした。
春の日差しのような清しい穏やかさを。
深久は表面上はいつもと何も変わらなかった。
明るいところで改めて見ると少しやつれたようにやせてはいたが、まっすぐに見つめてくる目に軽蔑や嫌悪の色はない。
むしろ人なつこさを増したようにいつもよりよく目が合った。
そしてよく笑い、よく食べた。
デザートにライチのアイスクリームを食べながら見せた幸せそうな表情は充分俺を満たした。
「おいしかった。ごちそうさまでした」
にこにこしながら頬を両手で押さえ、深久が言った。
夜も更けてきたというのに店内はそこそこ賑わっている。
カップルやサラリーマンも多く、とても落ち着いて話そうという雰囲気ではない。
それに何より、深久のこの笑顔をなくしてしまいたくはなかった。
「少し風にあたろうか」
★ライターのHPトップ。ジャンプはコチラ↓
http://members.tripod.co.jp/raita_/index-2.html ★
コメント