「繋がる想い」〜ずっとキスしてほしかった〜
2003年6月3日(σ・∀・)σ31ゲッツ!
繁華街を出ると、先刻までの喧騒が嘘のように静かになる。
一流ホテルやバーの間をすり抜ける細い路地を行けば、行きかう人の数がまばらになるのがこの街のおもしろいところかもしれない。
店を出てから、お兄ちゃんは一言も口をきいてない。
車を止めた山下公園の入り口のパーキングも通り越して、ただ黙々と歩いてゆく。
さっきまでの饒舌ぶりの面影もない。
何を考えてるのかな・・・。
お兄ちゃんの気持ちが掴めない。
私は煙草を取り出し火を点けるお兄ちゃんをぼんやりと横目で眺めていた。
「あ・・・」
潮風だ。
夜の闇が景色を塗りつぶしてるせいで余計にはっきりと海のにおいを感じ取れる気がする。
いつか、ハル君とここに来た。
初めてココでキスをした。
でも今は他の人といる・・・。
思ってもみなかった人と。
二月の海風は冷たく吹きつけ、身体を凍らせる。
薄いジャケットの前をかき合わせると、ふいに風が遮られた。
顔を上げるとお兄ちゃんの背中があった。
「これ着てろよ」
お兄ちゃんがくわえ煙草のまま自分のコートを脱いで私に羽織らせた。
長身のお兄ちゃんのコートは私が着るとロングコートのようにすっぽりと包まれてしまう。
「いいよ。寒くないよ?」
「強がってんなよ。着てろ」
そういうお兄ちゃんの瞳が優しくて、思わず私は頷いてしまった。
「いつもそんな風に素直なら可愛いのにな」
そう言ってくしゃくしゃっと私の頭をかき混ぜた。
それを首をすくめてやり過ごすと、お兄ちゃんはすぐに歩き出した。
慌てて後を追い、隣に並ぶ。
「言っとくけどねえ、お兄ちゃんの方がずーっと頑固」
「はいはい」
余裕でかわすお兄ちゃんが憎たらしくてにらもうと見上げると微笑が返って来て、ほんの少し胸を打たれた。
お兄ちゃんって・・・こんな笑顔する人だったっけ・・・?
「みとれてんなよ」
意地悪な笑顔ですかさずからかってくるお兄ちゃんに、私は体当たりを食らわせた。
「いってえ。なんだよ」
お返しにお兄ちゃんが体当たりを仕掛けてきたのを私はするりとかわした。
2人でじゃれあいながら公園の中を歩いていると、急にお兄ちゃんが立ち止まった。
「どうしたの・・・?」
「黙ってて」
波の、音。飛び込んできた。
視界に広がる海は黒く、まるで淀んだタールがたゆたっているように見えたけど、人工のコンクリートに打ち付けられる波音は清らかに、胸の内を侵食してくる。
海沿いの遊歩道に置かれたベンチに腰掛け、携帯灰皿に煙草をねじ込んでからお兄ちゃんは目を閉じた。
とりあえず私はその隣に座り、お兄ちゃんを見つめてみる。
その顎のラインが気に入っていた。
丸くて童顔な自分とはまるで違うシャープな輪郭。
きれいに通った鼻筋。左目の下の泣きぼくろ。
少しクセがあるせいで、外に跳ねている襟足。
今は閉じられている瞳は野性的な輝きをもっていることも知っている。
生まれてから片時も離れることなく生活を共にしてきた。
朝寝坊の顔も、人差し指と中指の間で煙草を挟む仕草も、早足でまっすぐな歩き方も。
全てが、焼きついてる。
誰よりも、近い存在。
ふいにカナコさんの姿がフラッシュバックしてきて私の胸は疼いた。
あれからお兄ちゃんはカナコさんと繋がったんだろうか。
この指で彼女の髪をかきわけ、腰をまさぐり、身体を重ねたんだろうか。
かき消そうとしても次々と浮かび上がるシーンがこま送りで増えていき、私は思わず唇をかんだ。
どうして私のことは抱かないんだろう・・・。
思ってから、自分に驚いた。
アタリマエだ。兄妹なんだから。
ぶるる、と震えが来て、私は自分を抱きしめるように抱え込んだ。
「寒いのか?」
ううん、と首を横に振ってお兄ちゃんを見上げた。心配そうな瞳がそこにあった。
一体何人の女性をこうして覗き込んで、何人の女性とキスしたんだろう。
私、嫉妬してる。どうしよう、嫉妬してるよ・・・。
「車に戻るか?」
私はもう一度首を振った。
「もうちょっとここにいたい」
「そっか・・・じゃあ」
言いながらお兄ちゃんは、私の肩を抱き寄せた。
「これならちょっとはましだろ?俺たちカップルに見えるかな」
「ばかなこと・・・」
言い終わらないうちに唇が近づいてきて、私は目を閉じる。
見透かされてるみたい。
すっとキスしてほしかった。・・・今、気が付いた。
「これなら見えるだろ?」
かする位の軽い口づけの後、不敵な笑みを浮かべてお兄ちゃんが言う。
私はしがみつくようにその胸に顔をうずめた。
鼓動がはやがねを打つ。
どっちの音だろう。私?お兄ちゃん?
波の音よりはっきりと聞き取れるそのリズムに酔わされる・・・。
「・・りないよ・・・」
「ん?何、深久・・・?」
「足りない」
お兄ちゃんは私の顎に手を掛け上向かせた。さっきまでのいたずらっこのような表情はもうない。
今度は、煙草の味がした。
息もできないくらいの激しさで、深くくちづけられる。
唇を離すとお兄ちゃんは私の唇を親指で拭い私を見つめた。
「愛してる・・・もうずっと、ずっと前からだ、深久」
★ライターのHPトップ。ジャンプはコチラ↓
http://members.tripod.co.jp/raita_/index-2.html ★
繁華街を出ると、先刻までの喧騒が嘘のように静かになる。
一流ホテルやバーの間をすり抜ける細い路地を行けば、行きかう人の数がまばらになるのがこの街のおもしろいところかもしれない。
店を出てから、お兄ちゃんは一言も口をきいてない。
車を止めた山下公園の入り口のパーキングも通り越して、ただ黙々と歩いてゆく。
さっきまでの饒舌ぶりの面影もない。
何を考えてるのかな・・・。
お兄ちゃんの気持ちが掴めない。
私は煙草を取り出し火を点けるお兄ちゃんをぼんやりと横目で眺めていた。
「あ・・・」
潮風だ。
夜の闇が景色を塗りつぶしてるせいで余計にはっきりと海のにおいを感じ取れる気がする。
いつか、ハル君とここに来た。
初めてココでキスをした。
でも今は他の人といる・・・。
思ってもみなかった人と。
二月の海風は冷たく吹きつけ、身体を凍らせる。
薄いジャケットの前をかき合わせると、ふいに風が遮られた。
顔を上げるとお兄ちゃんの背中があった。
「これ着てろよ」
お兄ちゃんがくわえ煙草のまま自分のコートを脱いで私に羽織らせた。
長身のお兄ちゃんのコートは私が着るとロングコートのようにすっぽりと包まれてしまう。
「いいよ。寒くないよ?」
「強がってんなよ。着てろ」
そういうお兄ちゃんの瞳が優しくて、思わず私は頷いてしまった。
「いつもそんな風に素直なら可愛いのにな」
そう言ってくしゃくしゃっと私の頭をかき混ぜた。
それを首をすくめてやり過ごすと、お兄ちゃんはすぐに歩き出した。
慌てて後を追い、隣に並ぶ。
「言っとくけどねえ、お兄ちゃんの方がずーっと頑固」
「はいはい」
余裕でかわすお兄ちゃんが憎たらしくてにらもうと見上げると微笑が返って来て、ほんの少し胸を打たれた。
お兄ちゃんって・・・こんな笑顔する人だったっけ・・・?
「みとれてんなよ」
意地悪な笑顔ですかさずからかってくるお兄ちゃんに、私は体当たりを食らわせた。
「いってえ。なんだよ」
お返しにお兄ちゃんが体当たりを仕掛けてきたのを私はするりとかわした。
2人でじゃれあいながら公園の中を歩いていると、急にお兄ちゃんが立ち止まった。
「どうしたの・・・?」
「黙ってて」
波の、音。飛び込んできた。
視界に広がる海は黒く、まるで淀んだタールがたゆたっているように見えたけど、人工のコンクリートに打ち付けられる波音は清らかに、胸の内を侵食してくる。
海沿いの遊歩道に置かれたベンチに腰掛け、携帯灰皿に煙草をねじ込んでからお兄ちゃんは目を閉じた。
とりあえず私はその隣に座り、お兄ちゃんを見つめてみる。
その顎のラインが気に入っていた。
丸くて童顔な自分とはまるで違うシャープな輪郭。
きれいに通った鼻筋。左目の下の泣きぼくろ。
少しクセがあるせいで、外に跳ねている襟足。
今は閉じられている瞳は野性的な輝きをもっていることも知っている。
生まれてから片時も離れることなく生活を共にしてきた。
朝寝坊の顔も、人差し指と中指の間で煙草を挟む仕草も、早足でまっすぐな歩き方も。
全てが、焼きついてる。
誰よりも、近い存在。
ふいにカナコさんの姿がフラッシュバックしてきて私の胸は疼いた。
あれからお兄ちゃんはカナコさんと繋がったんだろうか。
この指で彼女の髪をかきわけ、腰をまさぐり、身体を重ねたんだろうか。
かき消そうとしても次々と浮かび上がるシーンがこま送りで増えていき、私は思わず唇をかんだ。
どうして私のことは抱かないんだろう・・・。
思ってから、自分に驚いた。
アタリマエだ。兄妹なんだから。
ぶるる、と震えが来て、私は自分を抱きしめるように抱え込んだ。
「寒いのか?」
ううん、と首を横に振ってお兄ちゃんを見上げた。心配そうな瞳がそこにあった。
一体何人の女性をこうして覗き込んで、何人の女性とキスしたんだろう。
私、嫉妬してる。どうしよう、嫉妬してるよ・・・。
「車に戻るか?」
私はもう一度首を振った。
「もうちょっとここにいたい」
「そっか・・・じゃあ」
言いながらお兄ちゃんは、私の肩を抱き寄せた。
「これならちょっとはましだろ?俺たちカップルに見えるかな」
「ばかなこと・・・」
言い終わらないうちに唇が近づいてきて、私は目を閉じる。
見透かされてるみたい。
すっとキスしてほしかった。・・・今、気が付いた。
「これなら見えるだろ?」
かする位の軽い口づけの後、不敵な笑みを浮かべてお兄ちゃんが言う。
私はしがみつくようにその胸に顔をうずめた。
鼓動がはやがねを打つ。
どっちの音だろう。私?お兄ちゃん?
波の音よりはっきりと聞き取れるそのリズムに酔わされる・・・。
「・・りないよ・・・」
「ん?何、深久・・・?」
「足りない」
お兄ちゃんは私の顎に手を掛け上向かせた。さっきまでのいたずらっこのような表情はもうない。
今度は、煙草の味がした。
息もできないくらいの激しさで、深くくちづけられる。
唇を離すとお兄ちゃんは私の唇を親指で拭い私を見つめた。
「愛してる・・・もうずっと、ずっと前からだ、深久」
★ライターのHPトップ。ジャンプはコチラ↓
http://members.tripod.co.jp/raita_/index-2.html ★
コメント