「二人でいる強さ」〜初めて口づけた女の子〜
2003年6月7日(σ・∀・)σ100ゲッツ!
朝から仕事が手につかないまま一日を過ごした。
叫びだしたくなるほどにこみ上げてくる喜びはいつまで経っても消えない。
一秒でも早く深久に会いたくて俺は予備校の駐車場へと急いだ。
昨日はああ言ったけど、やっぱり少しでも長い時間深久と過ごしたい。
家に帰ろうか。
今は一瞬でも目を逸らしたくないほど、そばにいて深久のことを見つめていたかった。
車の近くまでくると、助手席のドアに人がよりかかっていることに気付き、足が止まった。
カナコだ。
「せんせい、遅いよ」
カナコは怒ったような顔でこちらをにらんでいる。
正直、忘れていた。
深久の事で頭が占められていて他の何事も隅に追いやっていた自分に改めて気付く。
「ごめんなさい」
いきなりカナコが頭を下げたので、俺は驚いた。
「昨日は軽率な行動でした。あんなやり方、子供みたいよね?ごめんなさい。もう二度としない」
真摯な瞳で見上げてくるカナコに二度驚かされる。プライドの高いこのお嬢さんがあやまるなんて。
「や・・・俺もキツイ言い方してごめんな」
「もう怒ってない?」
「別に怒ってはいないさ」
「よかった・・・」
ほっと明かりが灯るような笑顔でカナコは言った。
どうすればいいだろう・・・?
何も言えず俺は煙草に火をつけた。
大きく息を吸い、吐き出す。その時振り仰いだ夜空はネオンのせいか淀んでいて、星ひとつ見えない。
カナコは口をつぐんでいる。
「沢木さん、俺・・・」
言いかけたとき、カナコが駆け寄ってきて、抱きついた。
「ちょっと・・沢木さん」
「やっぱり間違いだったのね?昨日せんせいを行かせなければよかった・・そうでしょ?」
余分な質問は一切ない。
核心をついた聞き方がカナコらしいと思った。
「そうかもしれない」
でももしもう一度あの場面に戻ったとしても俺は深久を追いかけるだろう。
そしてカナコはひとり取り残されるのだ。
俺はカナコを優しく振りほどき、車に乗り込んだ。
「せんせい・・お願い、こっち向いて」
カナコの声高ではない、むしろか細い声が耳の奥を通り過ぎていく。
あえて無視して俺は車を発進させた。
これでいいんだ。
自分の汚さから目を逸らしながら俺は心の中でつぶやいた。
「おかえりなさあい・・」
深久がいつものようにぱたぱたと走って玄関先まで迎えに来てくれた。
「ただいま」
靴を脱いで上がると深久が俺の服の裾をつかみ、見上げてくる。
そんな仕草すらいちいち可愛くて、俺はぎゅっと深久を抱きしめてキスをした。
「寂しかった〜待ってる間」
「だって寄るよってメールしたじゃん?」
「でも・・・寂しいのっ。お兄ちゃんってばわかってないなあ・・・」
わかってるけど、俺はあえてなにも言わず笑ってごまかした。
俺だって一日中時計の針のスピードのことばかり考えて過ごしていたんだから。
「ねえ、二人で家出したこと、あったよね?」
並んで食器洗いをしているとき唐突に深久が言い出した。
「あったか?覚えてねえなあ」
洗いあがった皿を深久に渡しながら言うと深久はそれを受け取り、拭いてから食器棚にしまった。
「ほら、お父さんもお母さんも昔から滅多にウチに帰って来なかったから心配してほしくてさあ・・お年玉の残り握り締めて電車乗ったじゃない?」
「ああ・・海か」
俺も思い出した。
「私が小学・・・2年生の夏休みだったよね、たしか」
「そうそう、終点で降りたんだったよな。汚い海岸でコンビニのおにぎり食ったんだった」
「お菓子いーっぱい買い込んで、花火もやって・・・それでそのまま海岸でずっと起きてたよね」
「嘘だろ、お前は寝てたじゃん」
不服そうに深久は唇を尖らせた。
「そんなことないよ。だって私、朝日見たの覚えてるもん」
「俺が起こしたんだろ?」
「えー。そうだっけ?あはは。蚊にいっぱい食われたのはよく覚えてるんだけどな」
はっきりとあの頃の情景が浮かんできて、俺の胸は甘い思い出にしばし満たされた。
ひとしきりはしゃいだあと、膝を抱え、二人で寄り添って座った。
お日様の温もりの残る砂浜の感触。
寂しいといって泣いた深久の肩を抱き寄せたけど、何も言ってやれなくて。
高層ビルに途切れることのない空と、それを覆い尽くすほどの勢いで輝く星達と、群青色から紫色へとグラデーション作りながら明けていく夜と、泣き疲れて俺の肩に寄りかかったまま寝息を立てる深久。
あの時、この世界には2人しかいないと心から信じていた。
隣にいるのは自分が守るべき存在であるという強烈な自負心と共に夜明けを迎えたことを今、思い出した。
眠る深久にそっと口づけして、初めてあの時自分は恋をしていることに気付いたんだった。
どうして今まで忘れていたんだろう。
「次の日のお昼過ぎに家に帰ったんだったよね?」
深久の懐かしそうな声で現実に引き戻され、俺は相槌を打った。
「結局どっちも家に帰ってなくて、俺たちが家出したことに気付いてもいなかったんだったよな」
まったくふざけた親だぜ、と俺は笑った。
「あの時も笑い飛ばしたんだよね、お兄ちゃん」
「そうだったか?」
「ん。私すごいって思ったもん。お兄ちゃん強いんだって」
「俺は・・・お前がいたから強くなれたんだ」
「私もお兄ちゃんと一緒なら大丈夫って思ってた。ずっと信じてたの。・・・今でも、信じてるの」
「深久・・・」
深久を抱き寄せた。
「お兄ちゃん・・泡ついちゃうよお・・」
「いいじゃん。どうせシャワー浴びるだろ?」
「・・・そういう言い方ってヤダ」
「すみません」
ふたり額をくっつけあって笑った。
そして俺はもう一度、キスをする。
初めて口づけた女の子に。
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朝から仕事が手につかないまま一日を過ごした。
叫びだしたくなるほどにこみ上げてくる喜びはいつまで経っても消えない。
一秒でも早く深久に会いたくて俺は予備校の駐車場へと急いだ。
昨日はああ言ったけど、やっぱり少しでも長い時間深久と過ごしたい。
家に帰ろうか。
今は一瞬でも目を逸らしたくないほど、そばにいて深久のことを見つめていたかった。
車の近くまでくると、助手席のドアに人がよりかかっていることに気付き、足が止まった。
カナコだ。
「せんせい、遅いよ」
カナコは怒ったような顔でこちらをにらんでいる。
正直、忘れていた。
深久の事で頭が占められていて他の何事も隅に追いやっていた自分に改めて気付く。
「ごめんなさい」
いきなりカナコが頭を下げたので、俺は驚いた。
「昨日は軽率な行動でした。あんなやり方、子供みたいよね?ごめんなさい。もう二度としない」
真摯な瞳で見上げてくるカナコに二度驚かされる。プライドの高いこのお嬢さんがあやまるなんて。
「や・・・俺もキツイ言い方してごめんな」
「もう怒ってない?」
「別に怒ってはいないさ」
「よかった・・・」
ほっと明かりが灯るような笑顔でカナコは言った。
どうすればいいだろう・・・?
何も言えず俺は煙草に火をつけた。
大きく息を吸い、吐き出す。その時振り仰いだ夜空はネオンのせいか淀んでいて、星ひとつ見えない。
カナコは口をつぐんでいる。
「沢木さん、俺・・・」
言いかけたとき、カナコが駆け寄ってきて、抱きついた。
「ちょっと・・沢木さん」
「やっぱり間違いだったのね?昨日せんせいを行かせなければよかった・・そうでしょ?」
余分な質問は一切ない。
核心をついた聞き方がカナコらしいと思った。
「そうかもしれない」
でももしもう一度あの場面に戻ったとしても俺は深久を追いかけるだろう。
そしてカナコはひとり取り残されるのだ。
俺はカナコを優しく振りほどき、車に乗り込んだ。
「せんせい・・お願い、こっち向いて」
カナコの声高ではない、むしろか細い声が耳の奥を通り過ぎていく。
あえて無視して俺は車を発進させた。
これでいいんだ。
自分の汚さから目を逸らしながら俺は心の中でつぶやいた。
「おかえりなさあい・・」
深久がいつものようにぱたぱたと走って玄関先まで迎えに来てくれた。
「ただいま」
靴を脱いで上がると深久が俺の服の裾をつかみ、見上げてくる。
そんな仕草すらいちいち可愛くて、俺はぎゅっと深久を抱きしめてキスをした。
「寂しかった〜待ってる間」
「だって寄るよってメールしたじゃん?」
「でも・・・寂しいのっ。お兄ちゃんってばわかってないなあ・・・」
わかってるけど、俺はあえてなにも言わず笑ってごまかした。
俺だって一日中時計の針のスピードのことばかり考えて過ごしていたんだから。
「ねえ、二人で家出したこと、あったよね?」
並んで食器洗いをしているとき唐突に深久が言い出した。
「あったか?覚えてねえなあ」
洗いあがった皿を深久に渡しながら言うと深久はそれを受け取り、拭いてから食器棚にしまった。
「ほら、お父さんもお母さんも昔から滅多にウチに帰って来なかったから心配してほしくてさあ・・お年玉の残り握り締めて電車乗ったじゃない?」
「ああ・・海か」
俺も思い出した。
「私が小学・・・2年生の夏休みだったよね、たしか」
「そうそう、終点で降りたんだったよな。汚い海岸でコンビニのおにぎり食ったんだった」
「お菓子いーっぱい買い込んで、花火もやって・・・それでそのまま海岸でずっと起きてたよね」
「嘘だろ、お前は寝てたじゃん」
不服そうに深久は唇を尖らせた。
「そんなことないよ。だって私、朝日見たの覚えてるもん」
「俺が起こしたんだろ?」
「えー。そうだっけ?あはは。蚊にいっぱい食われたのはよく覚えてるんだけどな」
はっきりとあの頃の情景が浮かんできて、俺の胸は甘い思い出にしばし満たされた。
ひとしきりはしゃいだあと、膝を抱え、二人で寄り添って座った。
お日様の温もりの残る砂浜の感触。
寂しいといって泣いた深久の肩を抱き寄せたけど、何も言ってやれなくて。
高層ビルに途切れることのない空と、それを覆い尽くすほどの勢いで輝く星達と、群青色から紫色へとグラデーション作りながら明けていく夜と、泣き疲れて俺の肩に寄りかかったまま寝息を立てる深久。
あの時、この世界には2人しかいないと心から信じていた。
隣にいるのは自分が守るべき存在であるという強烈な自負心と共に夜明けを迎えたことを今、思い出した。
眠る深久にそっと口づけして、初めてあの時自分は恋をしていることに気付いたんだった。
どうして今まで忘れていたんだろう。
「次の日のお昼過ぎに家に帰ったんだったよね?」
深久の懐かしそうな声で現実に引き戻され、俺は相槌を打った。
「結局どっちも家に帰ってなくて、俺たちが家出したことに気付いてもいなかったんだったよな」
まったくふざけた親だぜ、と俺は笑った。
「あの時も笑い飛ばしたんだよね、お兄ちゃん」
「そうだったか?」
「ん。私すごいって思ったもん。お兄ちゃん強いんだって」
「俺は・・・お前がいたから強くなれたんだ」
「私もお兄ちゃんと一緒なら大丈夫って思ってた。ずっと信じてたの。・・・今でも、信じてるの」
「深久・・・」
深久を抱き寄せた。
「お兄ちゃん・・泡ついちゃうよお・・」
「いいじゃん。どうせシャワー浴びるだろ?」
「・・・そういう言い方ってヤダ」
「すみません」
ふたり額をくっつけあって笑った。
そして俺はもう一度、キスをする。
初めて口づけた女の子に。
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