(σ・∀・)σ149ゲッツ!

深久の隣に腰掛けたまま、しばらく俺は何も言えずにいた。
不安に感じたのか、深久が見上げてくる。
俺はふ、と微笑んで深久に軽く口づけた。
「とりあえず電話してみるよ」
俺は立ち上がって赤く光る録音ボタンを押してメッセージを消去した後国際電話のダイアルを回す。
受話器を持ったままソファまで戻ってきて、俺は深久の隣に座りなおした。
深久が身体をぴったりくっつけて、すぐ傍で会話に耳だてる。
「俺」
(早生?随分遅くまで仕事?)
「いや、風呂入ってて聞こえなかった。それより何だよ、明日こっちに帰ってくるなんていきなり・・」
(うん、最近体調悪くて入院してたのよ)
驚いて俺は深久を見た。
深久も目を瞠って首を振る。
「どこが悪いんだ?」
(うん・・最初腹痛があまりにもひどいんで行ったら子宮筋腫って言われたんだけどね、どうやら癌みたいなのよね)
深久が左手で口を押さえた。右手は俺のシャツの裾をきゅっと握り締める。
「・・・なんでもっと早く言わないんだよ?」
(だってえ・・検査でわかったの、昨日なのよ?しょうがないじゃない)
あっけらかんと言い放つ母に俺は却って不安になった。
(そっちにいいお医者さんがいるからとりあえず帰って診て貰えってこっちの医者が言うのね。だから早いほうがいいと思って。早生迎えに来てよ)
「何時に着くの?」
(7時くらいかしら?あんまりよくわからないわ。久しぶりにそっち行くんだもの。あらいけない、もう出なきゃ。空港に着いたら時間調べて電話する。あ、深久はそこにいるかしら?)
俺が深久に受話器を渡す時、涙があふれそうになってるのが目に入った。
心配なんだろう。
2人は・・・仲がいいから。
そんな深久にも入院することを知らせなかったのは心配させたくなかったからだろう。
受話器を握り締めながら深久が何度も頷いて話を聞いている。
俺はスーツのポケットから潰れかけた煙草の箱を取り出し火をつけた。
電話が切れるなり、深久が胸に飛び込んでくる。
火が当たらないよう左手を高く掲げながら俺は右手で深久の背中をぽんぽん、と優しく叩いてやる。
胸に顔をうずめてぎゅうっとしがみついたまま離れない。
俺自身、衝撃を感じないわけではない。
けれど元より深久ほどの強いつながりを両親に感じていないせいか、淡々と受け止めている自分がいた。
癌か。死ぬのかな・・・。
口に出しては言えないけれど、小さな覚悟を心に刻む。
そして次に考えたのは、自分の身の振り方だった。
明日からはこっちで暮らさなければ。
どっちにしろ今夜深久を抱いたなら、そうするつもりだった。
運ぶものなど大してないし、いらない物は処分すればいい。
やっと繋がれる、そう思ったのに予想外の不意打ちで痛いダメージを喰らってしまった。
深久の気持ちを考えて表には出さなかったけれど、俺は怒っていた。
身勝手な母親のいつものやり方に。
いきなり電話であっさり爆弾落としておいて挙句の果てに迎えに来いだ?
おまけに深久まで動揺させて。それに一番腹が立つ。
まったく、ため息が出るよ・・・。

俺は冷たいんだろうか?
ふと思い至って自問した。
腹を痛めて産んでくれた女が死ぬかもしれないその時に、こんなに冷静でいられるのはおかしいだろうか?
いや、俺がしっかりしなきゃならないんだ。
第一、癌イコール即死じゃないだろう、今の時代。
治療して乗り越えて社会復帰していくヒトだって大勢いる。
「もう顔をあげなよ、深久。とりあえず明日きちんと話を聞こう。嘆くのはそれからでも遅くないだろ?今日はもう寝なさい」
小さい子をあやすように優しく語りかけると深久は頷いてようやく顔を上げた。
目が真っ赤になっている。
俺のシャツは絞れるほど深久の涙を溜め込んでいた。
「あ・・ごめんね、お兄ちゃん」
「いいよ別に」
灰皿を引き寄せて煙草を押し付けてから俺は深久の肩を抱き寄せた。
「お母さん、多分すぐ検査入院だろうけどそれまで泊めてほしいって。それで・・あの、お兄ちゃんはどうするの?」
「明日解約してくるよ、マンション。どっちにしろそうするつもりだった」
「そっか・・・」
涙で濡れた瞳をほっと緩ませて深久がかすかに微笑んだ。
「よかった。・・せっかくだから明日はごちそう作ってお母さん迎えてあげようね?会うのって何年ぶりかな・・・」
「深久」
俺は深久の頭の脇辺りを両手ではさみ、引き寄せて口づけた。
「こんなことしてられんのも今夜限りだからな。明日からは・・・ただの兄妹だ」
「えっと・・・えっと、やっぱりお母さんに言っちゃ・・ダメ?」

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