「生きてきた意味」〜そして、儚げに笑った〜
2003年6月15日(σ・∀・)σ37ゲッツ!
「深久、ただいまー」
玄関から大声で呼ぶ声に気が付き、私は慌てて菜ばしを置いて火を止めた。
そのまま小走りで玄関まで出ると、懐かしい姿がそこにあった。
「おかえりなさい!お母さん」
抱きつくようにお母さんにしがみつくと、少しよろけながらもしっかり受け止めてくれた。
「あら深久、髪短くしたのねえ。よく似合うわよ」
「お母さんはまた焼けたね・・あ、早く上がって。寒かったでしょ?」
手をひいてゆっくりと先導する。
脚をほんの少しだけ引きずって、一歩一歩踏みしめるようにお母さんがついてくる。
「お兄ちゃんもお疲れ様。早くおいでよ。今日は手巻きにしたんだよ」
お兄ちゃんを振り返って私は笑って見せた。
お兄ちゃんも、微笑み返してくれる。
私はちょっとほっとした。
今朝仕事に送り出すときは、まだちょっとぎくしゃくしてたから。
嬉しくて嬉しくて、私は食べるのも忘れてずっと喋ってたみたい。
何度かお兄ちゃんに箸止まってるぞ、ってからかわれたくらいずっとお母さんに質問づくしだった。
離れていたこの2年間のことや世界中のあちこちの話を聞くのは、食欲中枢を満たすよりもずっとずっと刺激的だったから。
でもお母さんが一週間で帰るって言い出したとき、目の前が真っ暗になった。
思わず箸を置き、呆然とお母さんを眺めてしまった。
「なによ深久」
不思議そうにお母さんが私に聞いた。
「帰っちゃダメ」
「・・何を言い出すのよ、突然」
「きちんと治るまで診てもらわなきゃダメだよ。そのために帰ってきたんじゃないの?」
勢い込んで私が言うと、お母さんはこちらに身体を向けた。優しい眼差しをして。
「違うわよ。あんた達の顔を見に来ただけ」
絶句してしまった。信じられない。
お兄ちゃんがお母さんに冗談めかして聞いた。
「ほんとにあと3ヶ月の命とか言い出すんじゃないよな?」
お兄ちゃんの問いかけには答えずに、お母さんは食べかけのかっぱまきを口に放り込んだ。
ゆっくりそれを飲み下してからねえ、と言った。
「私がいつ死ぬかなんて判らないわ。明日には地雷踏んで身体ふっ飛ばしてるかもしれないし、事故に遭って即死してるかもしれない。でもね、自分が納得行く死に方ならいいのよ」
お母さんは一旦言葉を切って自分の手を眺め、そして言葉を繋いだ。
「病室から毎日変わらない景色を眺めて死んでいくのとカメラ抱えて走り回りながら死んでいくの、どっちが私らしいか。どっちが幸せか」
そう言うと、今度は私を見た。
「ねえ深久、私はいつでも、誰と会うときでも、この人とはもう二度と会えないかもしれないっていう覚悟を必ずどこかでしてるの。実際そういう別れも一度や二度じゃないわ」
そう言った後、お母さんはゆっくりと味噌汁をすすった。
私もお兄ちゃんも何も言えずに、そんなお母さんを眺めていた。
ほう、と息を吐きながらお母さんは私ににっこり微笑みかける。
「久しぶりの和食で幸せよ・・・おいしかった。ありがと、深久」
そしてそっとお椀を置くと向かいから私の頭に手を伸ばして頭をそっと撫でた。
「そんな顔しないで、深久。あなたには笑顔でいてもらいたいのよ。それに私が死ぬ時はフィールドにいるわ。間違いなく幸せに笑ってね。だから私もあなた達の笑顔をもって逝きたいのよ」
涙が、こぼれおちた。
私はそれを止められなかった。
「そんなのやだよ、お母さん・・きちんと治療すれば治るかもしれないのに・・・」
「治らないかもしれない」
お母さんは唇を引き結んだ。
「私だって死ぬのは怖いわよ?目の前で死んでいく人を見たわ。数え切れないほどたくさんよ。そういう人たち前にして、私は写真を撮る以外何もできなかった。ふがいない自分を呪ったこともあるわ。医師の資格が在れば救ってあげられたかもしれない。牧師だったら恐怖を取り除いてあげられたかもしれない。でも私がしたことは、撮り続けることだった・・・」
お母さんは、まだ私の髪を撫で続けている。
「私のやるべきことはそれだけなのよ。一人でも多くの人にこの死んでゆく人たちの存在を知ってもらうこと。一人でもいい、反戦の意思が芽生えてくれれば、私の生きてきた意味がある」
あなたたちには最後まで寂しい思いをさせてしまうけど許してちょうだい、とお母さんは言い、そして儚げに、笑った。
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読んでくり。
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「深久、ただいまー」
玄関から大声で呼ぶ声に気が付き、私は慌てて菜ばしを置いて火を止めた。
そのまま小走りで玄関まで出ると、懐かしい姿がそこにあった。
「おかえりなさい!お母さん」
抱きつくようにお母さんにしがみつくと、少しよろけながらもしっかり受け止めてくれた。
「あら深久、髪短くしたのねえ。よく似合うわよ」
「お母さんはまた焼けたね・・あ、早く上がって。寒かったでしょ?」
手をひいてゆっくりと先導する。
脚をほんの少しだけ引きずって、一歩一歩踏みしめるようにお母さんがついてくる。
「お兄ちゃんもお疲れ様。早くおいでよ。今日は手巻きにしたんだよ」
お兄ちゃんを振り返って私は笑って見せた。
お兄ちゃんも、微笑み返してくれる。
私はちょっとほっとした。
今朝仕事に送り出すときは、まだちょっとぎくしゃくしてたから。
嬉しくて嬉しくて、私は食べるのも忘れてずっと喋ってたみたい。
何度かお兄ちゃんに箸止まってるぞ、ってからかわれたくらいずっとお母さんに質問づくしだった。
離れていたこの2年間のことや世界中のあちこちの話を聞くのは、食欲中枢を満たすよりもずっとずっと刺激的だったから。
でもお母さんが一週間で帰るって言い出したとき、目の前が真っ暗になった。
思わず箸を置き、呆然とお母さんを眺めてしまった。
「なによ深久」
不思議そうにお母さんが私に聞いた。
「帰っちゃダメ」
「・・何を言い出すのよ、突然」
「きちんと治るまで診てもらわなきゃダメだよ。そのために帰ってきたんじゃないの?」
勢い込んで私が言うと、お母さんはこちらに身体を向けた。優しい眼差しをして。
「違うわよ。あんた達の顔を見に来ただけ」
絶句してしまった。信じられない。
お兄ちゃんがお母さんに冗談めかして聞いた。
「ほんとにあと3ヶ月の命とか言い出すんじゃないよな?」
お兄ちゃんの問いかけには答えずに、お母さんは食べかけのかっぱまきを口に放り込んだ。
ゆっくりそれを飲み下してからねえ、と言った。
「私がいつ死ぬかなんて判らないわ。明日には地雷踏んで身体ふっ飛ばしてるかもしれないし、事故に遭って即死してるかもしれない。でもね、自分が納得行く死に方ならいいのよ」
お母さんは一旦言葉を切って自分の手を眺め、そして言葉を繋いだ。
「病室から毎日変わらない景色を眺めて死んでいくのとカメラ抱えて走り回りながら死んでいくの、どっちが私らしいか。どっちが幸せか」
そう言うと、今度は私を見た。
「ねえ深久、私はいつでも、誰と会うときでも、この人とはもう二度と会えないかもしれないっていう覚悟を必ずどこかでしてるの。実際そういう別れも一度や二度じゃないわ」
そう言った後、お母さんはゆっくりと味噌汁をすすった。
私もお兄ちゃんも何も言えずに、そんなお母さんを眺めていた。
ほう、と息を吐きながらお母さんは私ににっこり微笑みかける。
「久しぶりの和食で幸せよ・・・おいしかった。ありがと、深久」
そしてそっとお椀を置くと向かいから私の頭に手を伸ばして頭をそっと撫でた。
「そんな顔しないで、深久。あなたには笑顔でいてもらいたいのよ。それに私が死ぬ時はフィールドにいるわ。間違いなく幸せに笑ってね。だから私もあなた達の笑顔をもって逝きたいのよ」
涙が、こぼれおちた。
私はそれを止められなかった。
「そんなのやだよ、お母さん・・きちんと治療すれば治るかもしれないのに・・・」
「治らないかもしれない」
お母さんは唇を引き結んだ。
「私だって死ぬのは怖いわよ?目の前で死んでいく人を見たわ。数え切れないほどたくさんよ。そういう人たち前にして、私は写真を撮る以外何もできなかった。ふがいない自分を呪ったこともあるわ。医師の資格が在れば救ってあげられたかもしれない。牧師だったら恐怖を取り除いてあげられたかもしれない。でも私がしたことは、撮り続けることだった・・・」
お母さんは、まだ私の髪を撫で続けている。
「私のやるべきことはそれだけなのよ。一人でも多くの人にこの死んでゆく人たちの存在を知ってもらうこと。一人でもいい、反戦の意思が芽生えてくれれば、私の生きてきた意味がある」
あなたたちには最後まで寂しい思いをさせてしまうけど許してちょうだい、とお母さんは言い、そして儚げに、笑った。
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