「存在意義」〜本当はあの子、深久より弱い〜
2003年6月17日(σ・∀・)σ56ゲッツ! ★ちょうちょさん、お気におーきに♪さんきゅ★
「今はちょっとさすがに私も動揺してるから・・・しばらく考えさせてちょうだい。少しだけ、ふたりだけにして」
お母さんがお兄ちゃんに言ってるのがぼんやりと聞こえた。
顔が、あげられなかった。
サイアクな形でばれてしまった。
どうしてこんなことになっちゃうんだろう・・?
「ああ」
お兄ちゃんが返事して、出て行く。
行かないでほしいとちょっと思ったけど、気まずいのも事実だった。
お母さんと二人取り残された部屋はしんと静まり返っている。
「イタリアには来なくていいわよ」
突然お母さんに言われて私は顔を上げた。
「なんで?一緒にいちゃダメなの?!」
「そばにいてくれる人はいるわ」
残酷とも言える言葉をお母さんは穏やかに口にした。
「私も深久と一緒にいたい気持ちはあるわ。だけど見られたくない部分もあるの。私は弱いわ。最期は泣き叫ぶかもしれない。傍にいてくれる人を傷つけるかもしれない。そういう自分を思い出として残したくないの。わかってくれるかしら?」
でも、それを恋人には見せられるんだ・・
胸が、痛む。
けれどそうか、とも思う。
お母さんにも一生を共にしたい人、最期を過ごしたい人が存在することを忘れていた。
「あなたたち、いつからつきあってるの?」
「・・・一ヶ月くらい前から。でもお兄ちゃんはいつもはあんなんじゃないよ?優しくて、いつでも私の気持ちを考えてくれてる」
「わかってるわ。あの子はあなたのこと、本当に本当に大切にしてるもの。昔からね。覚えてる?私が早生に出て行けってタンカ切られた日のこと」
「うん・・・覚えてる」
「深久は俺が育てるって。あんたは母親失格だって。ふふ。あの子だってまだ高校生だったのにね」
私の脳裏にも、あの日のことは焼きついている。
お兄ちゃんがあんなに激憤したのは初めてだった。
「完全に私が悪かったんだけどね。音信不通で一ヶ月くらい帰んなくて。私はあの頃から自分のことしか考えてなかったわ。・・・ごめんね、深久」
私は首を横に振った。
「寂しいと思ったときもあったけど・・・平気だったよ」
お兄ちゃんが、いてくれたから。
気が付くといつも傍にいて、一歩離れて見守っていてくれたから。
寂しい時は泣かせてくれた。
なぐさめたりせず、ただ、静かに。
きっと自分だって泣きたかったろうに。
「でもね、お母さんは思うの。きっと早生は深久がいたから生きてこれたのよ。しっかりしなくちゃ、守らなきゃって思うことで自分を奮い立たせて生きてきたと思うのね。・・・あの子にはかわいそうなことをしたわ。私を嫌うことで心のバランスを取ってるの、きっと」
いったん言葉を切ってお母さんは立ち上がり、私の隣に移動し腰掛けた。
「深久がいなくなったら自分の存在意義を失うわ、あの子。本当は多分・・・深久より弱い」
「まさか」
ううん、と首を振り、お母さんはまた私の頭を撫でた。
「自分を過小評価するのはあなたの悪いクセ。もっと自分が必要とされていることを自覚しなさい」
衝撃だった。
私は、必要とされている・・・?
「私が放任だったからきっと深久は自分が必要とされてないってどこかで思い込んでた。違う?だから誰かが離れていくことが怖い、でしょ?逆に離れていくのは平気なのよね。どうせ私なんていなくても関係ないだろうって思ってるんじゃない?」
図星かもしれない。
考えてみればずっとその繰り返しだった。
人から好きになってもらう資格なんてないような気がしてた。いつも、いつも。
自信がなくて、言いたいことが言えなかった・・。
「早生もそうなのよ。ただあなたと違うのは、早生にとって深久が全てだということ。あなたを失うことは多分あの子にとって生きていく価値すら失うことだと思うわよ。だから今度はあなたが早生を助けてあげなさい。好きあってるんなら尚更。ね?」
「私が・・・助ける?どうやって?」
驚いて聞き返すとお母さんはふふ、とまた笑った。
「そんなの傍にいてあげることよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「そんなことでいいの?」
「いいのよ。バカね。気が済むまで一緒にいなさい」
「お母さん・・お母さんは気持ち悪くないの?私たちのこと」
「それは・・・驚いたけど。本当に、驚いたけど。でもどこかでこうなるような気がしてたわ」
「どうして!?」
「近くにいないからこそ、見えることもあるのよ」
謎掛けのような言葉を残してお母さんは私の肩をぎゅっと抱き寄せた。
「やっぱり来てよかった・・・安心したわ」
「・・・そうなの?」
「うん。すっきりした。ずっと心のどこかで引っかかってたのが取れたみたい。安心して帰れるわ」
「ねえ、ほんとに一週間で帰っちゃうの?」
「そうよ。病院なんて口実だもの。一番の目的は果たされたからいいわ。残された時間は写真のためにあるの」
「勝手だなあ、お母さん」
涙目で微笑み返し私がつぶやくと、そうよ、とお母さんは誇らしげに胸を張った。
「世界の中山チカだもの」
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「今はちょっとさすがに私も動揺してるから・・・しばらく考えさせてちょうだい。少しだけ、ふたりだけにして」
お母さんがお兄ちゃんに言ってるのがぼんやりと聞こえた。
顔が、あげられなかった。
サイアクな形でばれてしまった。
どうしてこんなことになっちゃうんだろう・・?
「ああ」
お兄ちゃんが返事して、出て行く。
行かないでほしいとちょっと思ったけど、気まずいのも事実だった。
お母さんと二人取り残された部屋はしんと静まり返っている。
「イタリアには来なくていいわよ」
突然お母さんに言われて私は顔を上げた。
「なんで?一緒にいちゃダメなの?!」
「そばにいてくれる人はいるわ」
残酷とも言える言葉をお母さんは穏やかに口にした。
「私も深久と一緒にいたい気持ちはあるわ。だけど見られたくない部分もあるの。私は弱いわ。最期は泣き叫ぶかもしれない。傍にいてくれる人を傷つけるかもしれない。そういう自分を思い出として残したくないの。わかってくれるかしら?」
でも、それを恋人には見せられるんだ・・
胸が、痛む。
けれどそうか、とも思う。
お母さんにも一生を共にしたい人、最期を過ごしたい人が存在することを忘れていた。
「あなたたち、いつからつきあってるの?」
「・・・一ヶ月くらい前から。でもお兄ちゃんはいつもはあんなんじゃないよ?優しくて、いつでも私の気持ちを考えてくれてる」
「わかってるわ。あの子はあなたのこと、本当に本当に大切にしてるもの。昔からね。覚えてる?私が早生に出て行けってタンカ切られた日のこと」
「うん・・・覚えてる」
「深久は俺が育てるって。あんたは母親失格だって。ふふ。あの子だってまだ高校生だったのにね」
私の脳裏にも、あの日のことは焼きついている。
お兄ちゃんがあんなに激憤したのは初めてだった。
「完全に私が悪かったんだけどね。音信不通で一ヶ月くらい帰んなくて。私はあの頃から自分のことしか考えてなかったわ。・・・ごめんね、深久」
私は首を横に振った。
「寂しいと思ったときもあったけど・・・平気だったよ」
お兄ちゃんが、いてくれたから。
気が付くといつも傍にいて、一歩離れて見守っていてくれたから。
寂しい時は泣かせてくれた。
なぐさめたりせず、ただ、静かに。
きっと自分だって泣きたかったろうに。
「でもね、お母さんは思うの。きっと早生は深久がいたから生きてこれたのよ。しっかりしなくちゃ、守らなきゃって思うことで自分を奮い立たせて生きてきたと思うのね。・・・あの子にはかわいそうなことをしたわ。私を嫌うことで心のバランスを取ってるの、きっと」
いったん言葉を切ってお母さんは立ち上がり、私の隣に移動し腰掛けた。
「深久がいなくなったら自分の存在意義を失うわ、あの子。本当は多分・・・深久より弱い」
「まさか」
ううん、と首を振り、お母さんはまた私の頭を撫でた。
「自分を過小評価するのはあなたの悪いクセ。もっと自分が必要とされていることを自覚しなさい」
衝撃だった。
私は、必要とされている・・・?
「私が放任だったからきっと深久は自分が必要とされてないってどこかで思い込んでた。違う?だから誰かが離れていくことが怖い、でしょ?逆に離れていくのは平気なのよね。どうせ私なんていなくても関係ないだろうって思ってるんじゃない?」
図星かもしれない。
考えてみればずっとその繰り返しだった。
人から好きになってもらう資格なんてないような気がしてた。いつも、いつも。
自信がなくて、言いたいことが言えなかった・・。
「早生もそうなのよ。ただあなたと違うのは、早生にとって深久が全てだということ。あなたを失うことは多分あの子にとって生きていく価値すら失うことだと思うわよ。だから今度はあなたが早生を助けてあげなさい。好きあってるんなら尚更。ね?」
「私が・・・助ける?どうやって?」
驚いて聞き返すとお母さんはふふ、とまた笑った。
「そんなの傍にいてあげることよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「そんなことでいいの?」
「いいのよ。バカね。気が済むまで一緒にいなさい」
「お母さん・・お母さんは気持ち悪くないの?私たちのこと」
「それは・・・驚いたけど。本当に、驚いたけど。でもどこかでこうなるような気がしてたわ」
「どうして!?」
「近くにいないからこそ、見えることもあるのよ」
謎掛けのような言葉を残してお母さんは私の肩をぎゅっと抱き寄せた。
「やっぱり来てよかった・・・安心したわ」
「・・・そうなの?」
「うん。すっきりした。ずっと心のどこかで引っかかってたのが取れたみたい。安心して帰れるわ」
「ねえ、ほんとに一週間で帰っちゃうの?」
「そうよ。病院なんて口実だもの。一番の目的は果たされたからいいわ。残された時間は写真のためにあるの」
「勝手だなあ、お母さん」
涙目で微笑み返し私がつぶやくと、そうよ、とお母さんは誇らしげに胸を張った。
「世界の中山チカだもの」
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